M&A月報No.139 「アピシット新首相誕生!」

世界的に話題を提供した国際空港の閉鎖であるが、どんな事があっても、
12月5日の国王誕生日までには解除すると確信はしていた。

先の総選挙において、政党ぐるみでの選挙違反があったと憲法裁判所で
審議が行われていたが、12月2日、現与党のPPP党を初め与党3党に
有罪判決が出された。


これにより、3党は解党となった。

またソムチャイ首相他、この3党の幹部107名に付き、向こう5年間の
政治活動を禁止とした。
ソムチャイ首相はこれを受け、辞任、内閣は総辞職した。

この結果、PADは目的を達したと勝利宣言し、空港閉鎖を解除した。
これで国王誕生日前日の12月4日には平穏を取り戻し、恒例の国王の
スピーチを拝聴出来ると、誠に筋書き通りの結構な運びとなった。

しかしこの騒動がそうは簡単に収束しないと見ている。
即ち、

1. 現在の憲法裁判所の判事は反タクシン派が任命されて居り、今回の
異議申し立ての機会を与えずに行った、異例の速さの判決に有識者よりも
疑義の声が上がっている。

2. PPPは既にこの判決を予測しており、タイ貢献党(PTP)なる新党を立ち
上げており、今回活動を禁止された14名を除く219名が新党に移行し、
再度連立を組み、新首相を指名しようとしている。

3. その首相によっては、PADは、またタクシンの傀儡政権として何らかの
対策を考えている。

4. 総選挙を実施すると未だにタクシン派が優勢との分析もある。

黄組=旧体制派+知識層:赤組=新興勢力+農民層と国を真っ二つにした争いが、
そう簡単には決着出来ない、抜き差しならぬ状況になってしまっているからである。
タクシン氏が残した、高度成長、農村優遇の後遺症は大きいと感じる。

今回の騒動で欧州のある国では、自国民が空港閉鎖で帰国出来ぬ事に憂慮し、

”これは内戦によるテロ行為である。自国民救済の為に空軍を派遣し、
その任に付かせる”

と言っていた国々があると聞いた。
大人の対応と感じると共に、現在の日本には全く無い発想を感じた。

国際空港はPADに対し、損害賠償の訴訟を起こした。
今後の進展が見ものであるし、かなりの市民の声を代弁していると思うし、
とにかく空港閉鎖は禁じ手であった。

全ての人々が大変期待し待っていた国王の恒例のスピーチであるが、喉が痛く、
発熱との事で、今年は皇太子殿下とシリントーン王女がご出席となり、国王は
ご欠席、万人が落胆した。

二日前の軍隊の閲兵式にはお姿をお見せになって居ただけに大変残念な
仕儀であった。
ご健康の早期ご回復を念じたい。

しかし、今回のスピーチの内容には非常に困難な点が多く、またそれだけに
期待していた訳でもあるが、併せ国際社会への謝罪も必要かと感じられていた
だけに、どうも長老が健康問題を理由に、スピーチを断念頂いた節も感じる。

離婚したタクシン元夫人のポチャマン氏がバンコクに戻って来た。
当然逮捕されて然るべきと思っていたのに免れている。

タイの法律の解釈は何とも不可解であるが、また夫人がしゃしゃり出て、
連立政権、首相指名等に口を挟む事に不快感を感じている。

大方の予想に反し、PPPの中より造反者が出て、全員がPTPに移動せぬ事
となった。
最大野党の民主党は、新連立で過半数を獲得したと気勢を上げているが、
PTPの方よりは、5人を引き連れ戻ってきたら、大臣の席を一つ与えるとの餌で、
引き戻し作戦も開始した。

大臣の椅子では戻らぬと見たか、お得意のお金攻勢を仕掛け、戻れば
5,000万バーツ(一億五千万円)を提示したとも聞いたが、結果は不調に終わった。

今回の騒動で、タイの長老達の反応は、

”困った事ではあるが放って置け、過熱気味の経済を冷やす事は悪い事では無い。
タイには有能な人材が多い。
その内、何となく、指導者が決まって行く。
俺が、俺がと言っているのはダメだ。
そしてその内になる様に成る”

その“なる様になる”がどうなるのかと注目していたら、赤組にネウィン氏という
造反者が出た。
同氏はソムチャイ前首相には反対しており、従って、前回の組閣では冷たい
扱いを受けた。
これを根に持って居た為か、今回黄組みに寝返った様である。

民主党(黄組)は下院特別審議開催を要求、下院議員による首相選任の
議会を開催した。

結果、民主党を中心にする連立が造反組みも抱え込み、235票を獲得、
PTP(赤組)は198票に留まり、27代首相には民主党代表のアピシット氏が
首相に指名された。
44歳と最年少の首相の誕生である。

同氏は高等学校より英国の名門中の名門イートン校に留学、大学は名門
オックスフォード大卒の若きエリートである。
弊社幹部の同級生でもあり、これがタイ流の静かに誰かが現れ、なる様に
なった当面の結末かと思う。

日本で民主党が選挙で勝利し、前原氏が首相になった様にも感じられる
事象であるが、海千山千の老獪政治家が取り巻いており、赤組よりの反発
のみならず、組閣、その後の運営で、多くの雑音、圧力が掛かる事が容易に
予想され、これでタイが完全に落ち着くとはとても思えない、前途多難な
船出であるとは感じるが、若く且つ女性のファンが多い好男子、秀才の
誉れも高く、クリーンなイメージの国際派エリートが首相になった事を素直に
喜びたいと思っている。

組閣の顔ぶれを見ると、寝返ったネウイン氏の側近が内相、運輸相等に
抜擢されており、今後何かと騒々しくなりそうである。

その閣僚の承認式に国王がお元気な姿をお見せになり、

“諸君は高位にあり、従って責任も重い。
もし一人でも間違った事を行えば国は混乱に陥る(暗にタクシン氏を
批判した様にも取れる)
国の繁栄と平和を考えて職務に従事すれば、必ず国民は幸せになるであろう“

と激励のお言葉を述べられた。
かなり新政権に期待を寄せられていると感じた。

来年は当地でもリストラ、解雇の厳しい風が吹き荒れると分析する方々が多い。
しかし、前号でも述べた様に、タイでは農村と言う受け皿が存在する。
日本では雇用対策、失業保険、企業への奨励金等々の選挙受けとも思われる
失職対策案が次々に浮上している。
本当に今の日本には働く場所が皆無なのであろうか。

農村は、漁村は、介護の分野等々働き手を求めている分野はあるのでは無かろうか。
無理やり企業に雇い続けろ等とは言わずに、必要としている所に職の無い方々が
移動してくれる方策を考えるべきでは無かろうか。

日経新聞の春秋の欄に安全網が無いとの記載があった。
最大の安全網は農村と思うのだが如何なものであろうか。

日比谷公園での炊き出しや、住居の斡旋、厚生省の講堂の解放等を行わず、
失職の方々は農村に移動頂いては如何であろう。
例えば、100万人の方々を農村に移動頂き、農業の手助けより開始頂いたら、
一体幾らの助成金が必要なのであろうか。
何方にか試算頂きたいものと念じている。
またこの点はタイより学んで欲しいものとも思うし、タイとはやはり恵まれた国と思う。

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