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微笑みの国で雨にウタレテ・・・90′s 其ノ十三

2015/07/16


その女性は、まだ10代のあどけなさをプンプン匂わした感じの、
鼻が幾分潰れたヒトであったが、とても可愛らしい顔立ちをしていた。

「この娘が町田君のお気に入りなのか?」

などと、初めてのタイでローカルのアパートまで来て、ゴーゴー・バーなんていう
未知の世界で働いているタイ人女性を目の前に、俺達は緊張しながら
とりあえず町田君の反応を伺った。

町田君の顔は難色を示していた。

「あれ・・・?」

みたいなマヌケな顔で、発するべきコトバを模索しているようだった。

「この子?」

と、すかさずオキ君が町田君に聞いた。

「いや・・・違うべ。雰囲気は似ているとは思うんだけドモサ、、
それにマイは英語喋れるしなぁ」

と、町田君はタドタドシク反応した。

欧米人が日本人の顔の見分けがつかねぇ、と言う事が多いように、
そしてまた、アラブ人以外の人間にとってアラブ人の顔の見分けが
つかないように、初めての異国に地においては、往々にして
そういうことがあるものだ。

「サワディ~カップ!オーオーオー、Can you speak English?」

と町田君はその女性に丁寧且つゆっくり英語で聞いた。

しかし、その女性は英語があまり喋れないらしく、「クスッ」と微笑んだものの、
何もコトバを発っさなかった。

それもそうである。

イキナリ見ず知らずの訳もワカラン外国人と思われるあやしいセーネン達が
押しかけてきたのである。しかも4人も。

1人は顎髭がボーボーで、しかも白いキャップを深くかぶり、まさしく怪しいわけで、
そんな奴らに対して微笑んでくれているだけでもタイ人の懐の深さを感じ取れる
光景であった。

”日本だったら、不愉快な対応をされるか、怒鳴り散らされるかもしれないなぁ”

なんてことを考えながら、

”日本人とは根本的に違うのであるのだなぁ”、

と、そんなところで、タイ人を好意的に受け入れ様とする俺がいた。

「この女性は、最近バンコクに出てきたばかりの、その女性の妹じゃないの?
さっき町田君、歩きながら言ってたじゃん」

と、ナリタヒデキが冷静に言った。

「おーおー、そうかもしんない」

と言って、町田君は、住所の書かれたタイ語と英語のメモをその子に見せた。

「YES?」

町田君は反応を伺った。

「カー」

彼女はなんとなく眉間にシワを寄せながら、曖昧に答えた。

「Her name is Mai(マイ). She is my friend. マイ・・・マイ??」
「マイ?」

今度は、キョトンとした感じでその子は「マイ」と言った後、なんだか

「あっ!」とした感じの顔つきになり、

”おねーちゃんの知り合いの人(お客さん)かなぁ”みたいな感じで、

「マイ、トン・ニー・マイ・ユー・カー」

と、どうやらタイ語でなんか言った。

「オーオー、Is she here?」

と町田君が、さらに激しく尋ねた。

「マイ、トン・ニー・マイ・ユー・カー」

と、どうやらさっきと同じことを再び言ったようだった。

「マイだよ。マイ???」

と、町田君は、不安を押えきれず、しつこく聞くのだが、彼女自身も
何て言っていいのか分からないようだった。

と、ふと彼女の背後から男の声がした。

俺達が彼女の背後を伺おうとすると同時に、タイ人男が姿を現した。
長めの髪を真中分けした少し短足の男だったが、そのクッキリした目と
厚い唇が印象的だった。

「WHAT?」

と、その男は英語で聞いてきた。
どうやらその男は英語が喋れるみたいだった。

「マイ。マイ。She is my friend. Is she here now ?」

と町田君は、幾分、狼狽しながら英語で同じ事を聞いた。

「Oh- Oh-, She is not here !」

と、タイ語なまりの英語ではあるが、”残念だなぁ~”みたいな
顔をしながら、流暢っぽく答えた。

「Where?」

と、横からオキ君が割って尋ねた。

「Now She is in チェンライ」

と、ハッキリその男は答えた。

「チェンライ???チェンライ???」

町田君は明らかに狼狽しながら2回繰り返したが、まだ、あまり事の状況を
理解できていないようだった。

ふと横を見ると、さっそく「歩くガイドブック」のナリタヒデキが
「チェンライ・・チェンライ・・・」などと呟きながら、そのページを捲くっていた。


「She went back to Chiangrai yesterday.ダカライマココニハイナインダヨ」

と男は答えた。

「・・・・・マジカヨー」

町田君は”せっかくここまで来たのによー”と、無言の表情で俺らを見回した。

「あいつ、チェンライに行くなんて言ってなかったぜ。マジカヨ・・・」

と、繰り返し”マジカヨー”を呟きながら、マイから受け取ったメモを
右手でクシャクシャにしていた。

「でも、知り合ったばかりの客にはそんなこと言わないんじゃないの?」

と、ナリタヒデキが最もらしいことを言いながら、町田君を慰めたのか
煽ったのか分からない感じで言いながら、

「でも、チェンライまで、飛行機だと1時間かそこらで行けるみたいだよ」

と、余計な一言を付け加えていた。

”それにしても、ゴーゴー・バーで知り合った女性にそんなに会いたい
ものなのか・・・・・?”

などと、俺はあくまでも第三者として、客観的に目の前の状況を観察しながらも、
町田君のその”怒涛の直下型情熱アジア”というものを理解できないでいた。

「何が町田君をそう情熱的に、そしてその漂わせる哀愁オーラは
一体なんなのだ??」

などと、一人考えて込んでいた。

さすがに昼下がりのアパートの中は生温い暑さが充満し、
空調設備もない部屋からは、冷たい空気の代わりに、「ぶるんぶるん」と
いうファンの音と音楽が流れてきた。

ふと、気がつくと、オキ君がそのタイ人男に

「チェンライノイキバショシッテマスカ?」

と聞いていた。

「OH-OH-!シッテイマスヨ」

その男はそう答え、マイの妹らしい彼女に何かブツブツとタイ語で話し出した。
するとその彼女は、紙切れに電話番号と、タイ語でどうやら住所らしきものを
書き、町田君に手渡した。

「イマ、マイハチェンライニイマス。コレガレンラクサキデス」

みたいなことを彼女は言って、また「クスッ」と、ドアを開けて最初に
見せてくれたのと同じ微笑を見せてくれた。
 
”そんな微笑はどーでもいいべ”みたいな感じで町田君は、

「Is she here? Now in here? マイな?マイな?」

と、何時もになく真剣な顔で捲くし立てていた。

しかし、”怒涛の直下型情熱アジア”が生み出す、その真剣な表情の中に
かすかな希望ともとれる微笑みが浮かび上がったことを俺は見逃さなかった。
だけどそれは、目の前の彼女がさっき見せた”微笑み”とは程遠い、
下心丸出しの微笑みであるのだなぁ・・と、思わずにはいられなかったのである。


(つづく)

*「この物語は100%ノン・フィクションですが、登場する
人物名及び団体名はフィクション(仮名)です。