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微笑みの国で雨にウタレテ・・・90′s 其ノ十二

2015/06/17

ようやく俺達4人は市内へと戻ってきた。
さっきまでうつむいてばかりで、上を向いては「ハァァ」とタメイキばかりついて
ばかりいたのとはうって変わって、喧騒が奏でる街の熱気と活気を再び感じ始め、
なんだか活力が体の底から漲ってくる感じだった。

今度は間違いなくホワイクワンであることをナリタヒデキがバスマップで
確認していた。バスの料金徴収おばちゃんも俺達に”ここはホワイクワン”
であることを合図していた。

少しばかり不安があるものの、とにかく俺達はおばちゃんの合図した場所で
バスを降り、とりあえず空腹を解消することにした。
町田君がパッポンというゴーゴーバーで知り合ったねーちゃんの部屋を
探索するのはその後だ。

俺達は、バスを降りた所の目の前にあった屋台でバーミー・ナームを食べた。
バスが通りすぎる度ごとに吹き上げる排気ガスを含んだ東南アジアの熱風を
かわすことも面倒になるくらい、俺達はヒトトキの休息を必要としていたのか、
どうもダランと椅子に腰掛け、バラックの塀にもたれ掛かった。

だけど、バーミーを食べたせいか、否応なしにダラダラと垂れてくる汗が妙に
うざったく、しかも目に入るのでコンタクトレンズをしている俺にとっては、
ドーモ目がしみて仕方なかった。
それにタバコを吸っても、こうも排気ガス交じりの熱風が吹き付けてきては
美味しいわけもなく、なんかムリヤリ吸っている感じだった。

「ほいじゃ、そろそろ行こうでないの」

と、急に町田君がソワソワしながら言った。
俺達は再び歩き出した。
しかしその足取りは、さっきまでのヘトヘトトボトボでなく、ダラダラくらいには
回復していた。

どうやらその知り合いのねーちゃんのアパートは近いようで、その辺のタイ人に
聞いても、もうすぐ近いようなことを言っているようだった。

「ホントにそのねーちゃんはここに住んでいるのかい?」

と、オキ君が嫌味っぽく町田君に聞いた。

「間違いねーべ!確か妹と一緒に住んでいるって言ってたぜ。
妹は最近バンコクに出てきたばかりで、まだ何もしねーで、一日中部屋にいるらしいぜ」

と、妙にウキウキしながら町田君は答えた。
町田君は長身だから、やけに早足で、どうもついていくのが大変だった。

町田君は「サワディィィイカッププププ!」とハッキリした大きな声で、再び
道端のタイ人にメモを見せていた。
町田君の挨拶は妙に歯切りがよく声もでかく、しかも敬礼付きであったから、
妙にタイ人の受けもよく、今回はスムーズにアパートまでたどり着くことができた。

「何がいいのかよくワカンネーナ」

なんて思いながら、ようやく無事辿り付けたことになんだか異様な満足感があった。

アパートは、ソイを入って少し進んだ右側にあった。
同じアパートが3棟並んで建っていた。
彼女のメモには「B」と書いてあったので、俺等は、3棟の真中に建っている棟が
B棟と判断し、さっそく敷地の中へ潜入していった。

クラックがアタリマエのように入ったそのアパートは、やっぱり外観を
見た時に想像したようにオンボロだった。

初めてタイに来た俺等にとって、このタイ・ローカルのアパートは、
とにかく異様且つ新鮮であった。
くずれかけの閉ざされたような空間に漂う、生温いココナッツの匂いと独特の
香辛料の匂いというのかトム・ヤム・クンの匂いというのか、とにかくそんなタイの
日常のいろんな匂いが交じり合ったような匂いが鼻腔を刺激した。
それもやけに俺達を刺激した。ドキドキ感も、益々体の中から浮上してきた。

「タイは、街の中もそうだけど、建物の中もヘンないろんな匂いが混ざった
匂いがするんだなぁ」

と、オキ君が汗を拭きながら言った。
オキ君のシンボルでもある白い帽子もなんだか汗でぬれて、フヤケタ感じに見えた。

「でも、やっぱ香辛料の匂いが強いべ」

と、町田君はオキ君とは違い、勢いよく言った。

その建物は9階建てで、町田君の知り合いの女性は、どうやらメモによると
7階に住んでいるらしかった。

「B棟713」

これが彼女の部屋番号らしかった。

アパートは建てに長く、1階に30部屋はある感じだった。
大抵の部屋のドアが開いてたり、もしくは半ドア状態で、住んでいる住人の声や
ガンガンにかけてある音楽が否応なしに聞えてきた。
しかし、こうして見ると、”こんな真昼間からなんでこんなに部屋にいるタイ人、
しかも男が多いのだ?”と不思議に思った。

この時間帯は、通常なら働いているか、外出している時間だ。
しかし、部屋の中から廊下を通して響くタイ人男のタイ語が、同じく流れてくる
タイ語音楽とコラボレーションした形で耳に入って来て、耳障りだった。
そうなると必然的に、俺等の喋り声もでかくなってしまい、聞きなれないコトバを
察知したタイ人がドアから顔を覗かせては、モノを語らない、しかし意味のない
視線でまっすぐ俺たちを見ていた。そこに微笑みはなかった。

7階につくと、鼻腔を刺激する匂いがさらにきつくなった。
それもそうである。
廊下に立つと、部屋の前に無造作に置いてある食べ残しの皿やビニールに
入ったココナッツやいろいろなモノが発する匂いが、この暑さに相伴って
直接的に襲いかかってくるのである。

「こんな所に住んでんのかよ」

と、あきれたように町田君が言った。

「ふむふむうう、こんな所で、1ヶ月の家賃ってどのくらいなんだろう?」

と、ナリタヒデキが久しぶりに口を開いた。
さっきまで閉口してたのに、ナリタにもどうやらだんだんと興味が湧いてきたようだった。

しかし、初めてのタイで、いきなりタイ人が住んでいるアパートに来れるとも
思っていなかったし、毎日々々、観光地の寺院やストリートを廻ってばかりの
ある意味ぜいたくな”刺激のなさ”に飽き飽きしていた俺は、なんだかいろんな意味で

”タイ下層的ローカル感”を味わっていることにドキドキしていたし、
いつのまにかここに辿り付くまでの疲れも昨日までのモヤモヤもどこかに吹き飛んで
しまっていた。

713号室の前にようやく俺達4人は辿り付いた。
ドアは閉まっていた。
町田君がノックを3回した。
少し待って、ドアがゆっくり開いた。

「ひょっとしたら男が出てくるかもしれないぜ!おいおいダイジョウブかぁ?
しかもここであっているのかぁ?」

などという俺達の一抹のゆるやかな不安を払拭するような感じで、
女性が”ひょこ”っと顔を出したのである。



(つづく)