M&A月報No.105 「タクシン首相大騒動と下院解散総選挙」

タクシン首相が一族の所有するシン・コーポレーションの株を売却した事は
先月号でお伝えしたが、この件に関しての騒動が更に拡大している。

1.通信事業という国の基盤を担う事業の49%を外国に売り渡して
良いものか。

2. しかも直前に、従来は通信事業の外資出資制限が25%であったものを
49%に引き上げ可の法改正を行っている。

3.売却額が2,000臆円にも上るのに、全く無税というのは解せない。

4.タクシン首相より、いつ親族に譲渡されたのか、その経緯が全く
闇の中である。

5.一部の譲渡に際し、首相個人のバージン諸島にある資産管理会社が
関与している。

等々が議論になっている。

当然、この様な騒動になる事は容易に推測出来たのに、この時期に何故
売却したのであるかと有識者に聞いてみると、

”今がピークであると見ているからであろうし、かかる好条件での購入者は
現れぬと考えたのであろうし、彼はエネルギー関連に乗り換える考えであろう”

との回答が返って来た。

余りの騒動に恐れをなしたのか、TEMASEKTがこの取引を白紙に戻すとの
情報も流れ出した。

4日にタクシン首相の退陣を求める大集会が開催された。
主催者側は当初10万人規模と発表していたが、警察発表では2万人で
あった。

これに同調して2人の閣僚が辞任したのは、首相に取っては痛手であった
と思うが、一方、デモ側は、ただ退陣を叫ぶだけで、では彼が辞任すると、
誰が次の国政を担うのかが全く不在であり、説得力を大きく欠いている様
に感じる。

未だに国民の間で絶大なる信頼を得ている、元首相プレム氏が大学の
講演会で、“賢いが道徳基準を犯す事は良くない”“国家行政により身内
の利益に繋がるような事はしてはならない”と暗にタクシン首相のやり方を
批判する発言を行った。
これに賛同する人々は多い。

タクシン首相の支持率は、遂にこの5年間で最低の34.5%になったと
発表された。しかし、もっとも近いとされる対抗馬の民主党党首アピシット
党首も24%であり、対抗馬不在の感は免れない。

23日、タクシン首相はプレム氏の訪問を受け、解散を示唆された模様で、
急転直下、24日下院解散を実施した。
総選挙日は4月2日に決定。

この解散を野党は歓迎せず、あくまでタクシン首相の辞任、並びに憲法
改正協議を先行せよと、選挙には打って出ぬコメントを発表した。
この点は有識者間では不評を買っており、何故折角の好機を正々堂々と
戦わないのかと批判も多く出ている。

愛国党は議席を減らす事はまず間違いなさそうであるが、与党は守るで
あろうというのが目下の見方である。

選挙に勝利した後、タクシン氏は首相の座を退き、院政を敷くのでは
ないかとの見方も出ている。

92年の流血事件の一方の旗頭であったチャムロン元バンコク知事が、
今回も反体制派のリーダーの一人として躍り出ている事に不安を感じると
共に、またの騒動を引き起こし、折角安定基調で昇り調子のタイ経済を
低迷させないで欲しいと念じる所である。

総選挙をボイコットすると言うような事態は、タイ憲政史上初の出来事
であり、首相は選挙日の延期も野党に提案、何とかこの事態は避けたい
との意向は感じられる。

一方、現野党がボイコットしても、新政党が現れるとの見方もPRし、
野党に圧力を掛けている。

野党側は、愛国党が勝利してもタクシンを首相に任命せぬ様、国王に
陳情書を提出する事も検討している。
折角安定していたタイであるが、政局に目が離せぬ状況となった。

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