M&A月報 No.206「クーデター、その後」

長期間の休暇を頂いていたが、先月末にバンコクに戻ってきた。

ほとんど軍人の姿を見る事は無く、以前と何も変わらぬ状況で、

唯一、問題を感じたのは、NHKが視聴出来ぬ事であった。

日本に居る時は、多くの方々より、”タイは大変だね”と言われた。

その度に、今回のクーデターは想定の範囲内であり、むしろ遅きに失した感があるし、

歓迎していると述べてきた。

むしろ、問題を感じるのは日本の現状の方であるとも言ってきた。

滞在中、タイの事は心配してくれるのだが、以前より同じで、日本の現状について

全く楽観的で、特に昼間のお笑い的な番組を見ていると、祖国の将来が非常に気になった。

現政権は全ての有権者のご機嫌取りの政策、バラマキ、賃上げ等々で大変結構な事ではあるが、

結果、国の借金は青天井、何時、誰が、この借金を返すのであろうか、全く道が示されていない。

中国が領土問題で、あからさまに攻勢を掛けて来ている。

有事の折には、米軍が中国と一戦を交えてくれるとでも思っているのであろうか。

米国は、口は出しても、手は出さぬと思っている。

自国の防衛をどう考えて居るのであろうか。

圧倒的な軍事力、経済力を誇った米国も、70年近い年月が経過、状況は変わって来ている。

なのに戦後米国が押し付けた憲法改正は全く必要ないとする、半数近い声には同調しかねているし、

訳の良く判らぬ理屈を述べて自衛隊の派遣を審議しているが、あっさりと憲法は改正すべきと感じている。 

今回のタイのデモの根底には、高度成長、バブル、利権、汚職を嫌う多くの人々の支援があった。

言い換えれば、バラマキ政策の中止、国の借金が増える事に対する問題意識、

バラマキから発生する汚職の根絶、この金で選挙に勝つ図式の消滅、これらを実行するための

憲法改正の必要性である。

日本の友人に、タイ人の方が遥かに国の将来を考えている様に感じるし、金権政治よりの脱却には、

クーデターも止む無しとの判断になったと思い、賛同していると話した。

戦後、米国より押し付けられた憲法を、未だに変更する必要はないのか、国は誰が守るのか、

どんどん借金し、自分達は快適な人生を送り、そのツケは子孫に払わせるのか等々を考え、

なぜ半年間もデモを続け、汚職体質の政権を追い詰め、クーデターまでも容認しているのかを、

良く分析、考察し、その上で自国に比し、”タイは大変ですね”と言って欲しいと感じている。

一方、米国は、反民主主義として、タイを批判表明した。

日本の外相、官房長官もこれに同調し、同様のコメントを発表した。

これにタイは大反発、駐タイ米国大使の送還も辞さぬ態度を示した。

両国は、現状分析が不足と強く感じる。

ある著名なタイの有識者が「クーデター以外にタイの現状を救う道があるのであれば教えて欲しい」と

日本に質問したが、誰も答えられていない。

外相、官房長官、答えて頂けないものであろうか。

日本はギリシャのような状態にならぬ前に、選挙で選ばれた政府が財政再建を行い得るのかが、

タイから突き付けられているメッセージという事をよく吟味した上で、今回の事態を批判すべきと思っている。

ムーディーズもタイの経済基盤は盤石であり、政治混乱からの影響も軽微として、格付は維持した。

現在はプラユット司令官が国家平和秩序評議会(NCPO)を設置して国家運営を図っているが、

第一フェーズ(2~3ヵ月以内):国民和解の作業部会を設置、

第二フェーズ(一年以内):NCPOが選ぶ議員200人で立法議会設置、暫定首相、内閣を設置、

第三フェーズ(2015年末)総選挙実施との行程表を発表した。

当然の事であるが、2015年末の総選挙の結果が、大変重要な意味を持ってくる。

NCPOのプラユット議長は、

「あまり長く権力の座には留まりたくない。10日間で既に嫌になったが、

未だ将来への展望が見えず、8月も引き続き担当する。

愛する祖国を発展させる為、他の国に頼る事無く、我々自身で将来の基礎を築く。

我々の将来に付き、他国に指図はさせるな」

と日本や米国を意識した発言も付け加えた。

ある調査機関が世論調査を行った所、プラユット氏が断トツの41.3%の支持を得た。

二番手には、元首相のアナン氏(84歳)が8.5%で入り、三番手以降は2%以下と

プラユット氏は圧倒的で、暫定首相に就任しそうである。

タイではやりたくない人に首相をやらせるのが良いとの言い伝えもある。

その面よりも長期政権が予想されている。

NCPOは先に、洪水対策事業、新幹線の導入、米の高価買取に付き、廃止の方向を打ち出したが、

今般7件の大型プロジェクトに付いて、その透明性、経済効果の検証を行う事を発表した。

115の国鉄車両、126の機関車、空港の拡張、空港での旅客スクリーニング・システム、

エネルギーPOLICYの関連事務所、3G携帯電話ネットワーク、DIGITAL TVである。

今後もきな臭い匂いのするプロジェクトは廃止して行くとも表明した。

ある程度の景気刺激策も考え出した様である。

しかし小学生に無料配布していたタブレットの支給は廃止した。

更に、インフォーマルセクターといわれる、低所得者層向けの対策も打ち出して来た。

即ち、タクシー業界、屋台、宝くじ等の分野で、調整を取り仕切っている、

マフィアスタイルの分野にもメスを入れて来た。

これ等は長年に亘って、判ってはいても解決出来なかった分野であり、

NCPOのお手並み拝見との機運もある。

一方、お気の毒なのは観光事業である。

5月は10%の落ち込みとなり、17万人強に留まった。

NCPOは人気回復にも努めようと、夜間外出禁止令も解除し、カラオケ大会等も開催したが、

更に、人気の高い、キング・ナレスワン5王を無料上映した。

この王は16世紀後半にビルマからの独立を取り戻した英雄であることより、

愛国心を鼓舞する目的で取り上げられた。

これに対し、入場券を求める市民が殺到した。

平和な事である。

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