M&A月報 No.182号 巨星堕つ

  何時の日にかは来る事を覚悟はしていたが、3月8日早朝、
 悲報が届けられた。

 即ち、1997年7月1日にM&A社を立ち上げた時の最大の支援者で、
 筆頭株主になって下さり、三男カニット氏並びにその妻のアマラ氏を
 経営者として送り込んで下さった、元副首相、内務大臣、警察庁長官等を
 歴任された、大恩人のPOW SARASIN氏が、3月7日にご逝去されたとの
 知らせであった。


 83歳であった。

 兼ねてより、療養中ではあったが、今年に入り、病状は思わしくなく、
 一ヶ月前には集中治療室に入られて仕舞い、お見舞いも適わぬ状況と
 なっており、大変心配をしていた矢先の事ではあった。

 前職で初めてタイに赴任したのが、1992年6月、辞令は4月に出ていたのであるが、
 5月の流血事件の最中で、東京に足止めされていた。
 やっと着任したものの、タイに付いての知識は全く無く、自己のタイ人上長を
 探し求めていた。

 9月このタイの難局を国王より託された、民間人のアナン首相並びに
 POW副首相が、総選挙の任を終え、身を引かれるとのニュースに接した。

 タイの知人にアドバイスを求めると、“アナン氏は無論素晴らしい御仁だが
 指示をしてくる、貴方の希望は困った時に助けてくれる御仁であろう。”
 最適の方はPOW氏だという。

 早速面談をお願いした所、会いに来いとの回答。
 恐る恐る参上した所、最初のお言葉が、
 “GOLFはやるか?”
 ”大好きです”
 とお答えすると
 “引き受けた”
 の回答だった。
 ”お礼は?”と質問すると“任せる”との回答、これが一番の難問であった。

 3年間お世話になり、5年後に定年となりましたと報告に伺うと、
 “今後どうするんだ?”とのご質問。
 郷里の神戸に戻り、トマトやキュウリを作りますと言うと
 “トマト、キュウリはタイでも作れる、帰って来い。資金も半分出す故起業しろ”
 ”資金だけでは無理だ、誰か人も欲しい”
 これで断られる事を期待したのだが、
 “判った。三男の嫁に手伝わせる”。
 遂に退路は絶たれた。
 激怒したのは、米国資本の有名企業に勤務し、幸せな日々を送っていた
 三男の奥様アマラさんであった。

 3年間の余り、深いお付き合いでも無かったのに、何故、かくまで好意的な
 対応を頂いたか、いつの日にか聞きたいと切望していたが、その機会を
 逸してしまった事が今となっては何とも悔やまれる。

 それから16年、今日まで来れたのは、サラシン家のバックアップ、
 皆様方の厚いご支援、幸運、良き社員にも恵まれたからではあるが、
 何と言っても、POW氏の支援、庇護の下にあったからと思っている。
 “巨星堕つ”。

 やはり大きな大黒柱を失った感を深くしているが、時代の大きな変わり目でも
 あるのかなとも感じている。
 ご冥福を心よりお祈りしたい。

 ご葬儀は、王室が許可した者のみが行えるBENJAMABORPIT寺院と決まり、
 3月8日、王女様がお越しとなり、蝋燭に火をともしてから開始となった。
 一週間は王室主催、その後二週間は、毎日数社の、POW氏が関係した企業が
 スポンサーとなり、執り行われた。
 6月16日に、また王女様ご臨席のもと火葬の儀式が執り行われ、
 これで終了となる。

 合掌。

 注目のバンコク知事選挙が行われた。
 下馬評通り、与党が推す元警官幹部のPongsapat氏と野党民主党の推す
 前バンコック知事Sukhumbhand氏の一騎打ちとなった。

 結果は、Sukhumbhand氏1,256,231票、Pongsapat氏1,077,899票と
 100万票を越える大台での大接戦であったが、野党の勝利となった。
 今回は与野党の対決というよりは、どうしてもバンコクを抑えたいとする
 与党とそれへの反発勢力の争いと感じた。

 インラック首相もかなりの時間を割き応援に回ったが、Pongsapat候補の
 後ろにはタクシン氏の影が付き纏い、反タクシン、反赤組の票が
 Sukhumbhand氏に回ったとの感がする。
 民主党を支援したのでは無く、反タクシン票が他に適当な候補者が
 いない為に流れたと思う。

 この結果を受け、この国を取り巻く環境が、タクシン一色にならなかったのは、
 非常に良かったとする、多くの声が聞こえて来たのには驚かされるし、
 未だに都市部では根強い反タクシン勢力が居る事を感じさせられた。
 タイも日本他を見習ってか、2兆バーツ(年間の国家予算に匹敵)もの
 借り入れ法案を閣議了承した。
 これは交通整備/大型社会インフラ整備等に必要な公共投資費用としている。

 財務相は、この様な巨額の借り入れでも、公的債務比率は、規制値の
 GDPの50%を越える事は無いと力説している。
 国内の銀行よりの借り入れで行う計画で、50年間で完済するとも説明している。
 また10年後には、国民一人当たりの所得を倍増させるともしている。

 何故今のこの時期にかくも巨額の借り入れを行うのか、
 目下絶好調のタイ経済だけに、何故今?と疑問視する声も多い。

 ある程度経済成長に拍車は掛かるのではあろうが、贈収賄の問題が
 また発生する事を懸念すると同時に、政府が打ち出の小槌で
 生み出したお金ではなく、あくまもでも国民がいつかは負担するものである事を
 認識すべきとの当然の論評も出ている。
 9月の国会成立に注目したい。

 キプロスの問題を見ていると、数年後の日本、タイ等でも起こる問題では
 ないかと感じているが、今の所、両国のマスコミは、危惧の念を
 ほとんど報道しない所を案じている。

 国税局長が報道機関に、今年度の税収は、法人税を23%から20%に
 引き下げるも、歳入は、当初目標を達成出来る事を確信したので、
 再度、現在の暫定VAT7%を引き上げる必要性は無いとコメントした。

 税収は目下、目標を25%上回っており、法人税は減収となるが、
 VATの徴収が拡大しているとみている。
 好景気に恵まれ、引き上げない。大変結構な事である。

 BOIの発表によると、今年度の申請額が、昨年の1兆4,000億バーツと同様、
 2年連続で1兆バーツを越える見込みと報告した。
 金額は昨年より減少傾向にあるが、申請件数は50%増となっている。

 即ち、中小、零細企業の申請が増えている事を物語っている。
 今年より導入を検討している新投資奨励戦略であるが、導入は少し遅れ、
 来年初頭よりとなる見込みも発表したが、今後さらなる混乱が生じ、
 導入はかなり遅れるとの見方も出ている。

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