M&A月報No.129 「サマック新内閣発足と元首相アナン氏の東京講演」


“PUPPET”なる大きな見出しが新聞の一面に躍った。
サマック内閣を今後はこう呼ぶようである。
“あやつり人形”には色々雑音が入 り、組閣にも苦労している様である。

2月6日、遂にサマック内閣が国王により承認された。

首相兼国防大臣  :サマック
財務大臣     :スラポン    
外務大臣     :ノパドン   
内務大臣     :チャルーム


等が注目される所である。

首相の国防大臣兼務がタクシン氏の意にも反した様だが押し切った。
最も、気になるのが、幹事長であったスラポン氏の財務大臣である。
51歳の元医師、経験、手腕に大きな不安がある所が気になる。
次いで外務大臣、元タクシン氏の顧問弁護士である。

この件を話題にすると、愛国党解体時に111人もの上位党員を、
今般の選挙では出馬出来なくしていた。
従って、今回の当選者は112番目よりの二軍である。
二軍よりの大臣、こんな程度だろうと醒めた意見が多かった。

サマック首相は、「タクシン氏の帰国はいつか知らない、自分は操り人形では
無い」と公言し出した。“ばらまきで二軍の内閣”の船出に注目したい。

5月と言われていたタクシン氏の帰国であるが、2月28日、1年5ヶ月振りに
戻って来た。
早めた理由はサマック首相のよそ振りが気になったからであろうか。
3,000人が出迎え、450人の警官が警護した。
その後検察庁に出頭し、保釈金を払い釈放された。

政界には復帰せず、名誉を取り戻したいとのコメントであったが、市民は
これで二人の首相になったとの認識である。
暗殺の危険も否定できず、同氏の行動、発言にサマック首相以上に注目が
集まる事となろう。

未だに、最も首相をやって欲しい人物でアンケートを行うと、1992年流血
事件後、国王の懇請により民間より首相に起用されたアナン氏が第一位となる。

そのアナン氏が東京で“アジアに対する日本の役割”というタイトルで講演を
行った。ご存知かとは思うが、要旨を以下に紹介したい。

“過去何年にも亘って、冷戦後の日本は、どの様な役割をこのグローバルな
世界で果たすべきか議論されて来た。
60年前の終戦より、日本は廃墟から世界の経済大国にのし上った。
一方、全能と思われた米国は、今やイラク問題で自信喪失となり、如何に
終息するかに心を奪われている。

中国、インドは貧困より抜け出し、世界の力の均衡を変えようとしている。
ロシアは2大国よりすべり落ちたが、持ち直し、世界政治の中で発言権を
増大させて来ている。

東南アジアは連携を深め、2020年のアセアン経済共同体を目指し動き
出している。無論、今後の10年がどうなるかを予測することは、無謀な事と思う。
しかし現状が継続するとすれば、世界地図は変わりそうである。

向こう数年間、米国は自国経済を健全なものに戻す事並びに世界各国より
の信用を取り戻す事に力を取られるであろう。

中国、インドは間違いなく経済を発展させ、大国の仲間入りを果たすであろう。
韓国は経済並びに技術の分野で、更に力を付けて来るであろう。
これ等より、日本は慣れない事ではあるが、米国一辺倒より、アジアにおける
パートナーや競争相手と密接なる付き合いをする必要に迫られるであろう。
即ち、日本がアジア諸国と密接な関係を構築して行く事が最重要と考える。


(1)日本は過去のしがらみから抜け出し、アジアの国々との密接なる関係
構築に邁進すべきである。
この方向に向け、日本は明確なビジョンを示すべきである。
現状では、これを行っていない。  
アジアの国々は日本がどの方向を目指しているのか分かっていない。
第二次大戦後、日本はメッセージを発信して来なかった。
只米国の蔭で発展して来た。
発展するアジアの中で、明確なビジョンを示す時期である。
経済的にはアジアの中で確固たる地位を築いている。
この利点を生かすべきであるし、この力を政治に使うべきである。
これをしないと、日本の地位は実力以下に低下してしまう。
日本とは思慮遠謀で、不可思議で、控えめで、摩訶不思議な国である。
コンセンサスを重要視している。しかし、現在は自己主張が大切である。


(2)未だに第二次大戦のお詫びを聞くが、そんな事より首相の靖国神社
参拝をやめるべきである。
福田首相が靖国神社参拝を控えている事を評価したい。


(3)日米同盟の傘から抜け出し、自己主張すべきである。
ODAでは多額の貢献をしているが、その影響力をどれだけ行使しているの
であろうか。
1997年、日本はAMF構想を提案したが、米国の反対に遭うと取り下げて
しまった。無論、EUも米国の防衛網の恩恵を受けている。
日本も完全に傘から出よと言っているのではない。
しかしEUの様に言うべき事は言うべきである。
日本の経済力に付いては、輝かしいものがあるし、牽引力もある。



(4)中国はこの20年間、発展を続け、10%以上の成長率を保ち、ドイツを抜き
3位の地位を占めた。
世界一になるのは時間の問題であろう。
アジアの各国は日本が中国に接近し、将来自分達の声を伝える場合、
日本がその役割を担って欲しいと思っている。
日−中の安定した関係は、アジアに安定した関係をもたらすのである。
日−中に加え、アセアンの5億4千万人、更にインドを加えると、米国、ロシア、
EUに対抗出来る一大勢力に成ると確信している。“


筆者はアナン氏と2日間の旅行を共にする機会を得た事がある。
この折、同氏よりは、何故日本人は60年も前に進駐軍より押し付けられた
憲法を改憲する事にアレルギーがあるのかと議論を吹っかけられた経験がある。

明確なビジョンを示し、米国の傘より抜け出し、改憲も行い、日—中関係を
強固なものにし、インドを含むアジアのリーダーとして、その経済力をバックに、
世界にその存在感を示して欲しいというのが骨子であった様に感じる。

タイに住む者として、大いに共感を呼ぶ講演会であったと思う。