M&A月報 No.243「インラック前首相への最高裁判決公判」

 

先月の7月28日は、ワチラロンコン新国王陛下の65歳誕生日であったが国王陛下は式典に姿を見せず、また、前プミポン国王時代は恒例だった国民へのメッセージもなかった。前国王の葬儀前の服喪中のためとの解説もあったが、近いうちに国民向けのメッセージが拝聴できることを念じている。

 

昨今、不敬罪で起訴されるケースが急増しているが、先日も、裁判所がワチラロンコン国王陛下の経歴を報じた英BBC放送の記事をフェイスブックでシェアしたことが国王陛下への中傷に当たるとして、不敬罪などに問われた男性学生活動家に禁錮2年6月の実刑判決を言い渡した。

国連人権高等弁務官事務所も、昨今のタイ当地における不敬罪を取り巻く状況に強い懸念を表明しているが、軍事政権が批判や反対意見を押え付けるために利用しているという批判が根強いことも事実である。

 

目下、国民分断問題は小康状態を保っているが、タクシン派インラック前首相によるコメ担保融資制度における職務怠慢の罪を問う最高裁の公判が開かれ、最終弁論において、インラック氏は「私は巧妙な政治ゲームの犠牲者である。コメ農家支援を目的とする公共政策であり、商業政策ではない。私が違法に職務を遂行または怠って損害をもたらしたことは一切ない。

この担保融資制度でコメ農家の生活が向上し、その子弟にさらなる教育の機会を提供した。コメ農家のためにこの政策を履行するチャンスを得たことは私の生涯の誇りだ」と涙ながらに訴えた。

しかしながら、5000億バーツの損失を出したバラマキ政策であり、税金の無駄遣い、国の借金を増やしてしまったことは事実である。

 

8月25日。最高裁の判決日に、インラック氏は裁判所に姿を現さず、逃亡した。最高裁は公判を9月27 日に延期するとともに、インラック氏に対する逮捕状を発行した。

インラック氏は現在、ドバイに居るものとされているが、一切の声明やコメントは出ていない。

 

インラック氏が有罪となった場合、大きな反発や衝突が予想されるため、政府が逃亡を黙認、あるいは加担したなどとの臆測が流布しているが、プラユット首相は一貫して「誰が何の目的でそのようなことをするのか、なぜそんな見方をするのか理解できない」と否定し、逃亡については「想定外だ。私は彼女を尊重し、手続きにのっとって出廷すると思っていた」と述べている。監視していた治安当局に責任を問う声も高まっている。

 

兄のタクシン元首相も、有罪判決を受けて、目下、海外逃亡/亡命中であるが、共に首相を経験した兄弟が共に海外逃亡の末路になろうとは、10数年以上前の好景気時且つ首相としての絶頂時に誰が想像できただろうか?「法を盾にし、正義の名の下に永続する専制政治ほど残酷なものはない」というタクシン氏のコメントが軍事政権の隙間でむなしく響いている。

 

「20カ年国家戦略」なるものが世間を賑わせている。これは持続可能な開発を目的とした長期的な国家指針であり、策定のための関連法が官報で公布された。首相を委員長とし、陸海空の各軍司令官ら現職の軍最高幹部5人を含む「国家戦略委員会」が戦略を立案し、履行の監視に当たるという。民政移管後の将来の政権にも影響力を持つ可能性があり、批判の声も多い。インラック前首相のコメ担保融資制度問題ではないが、将来の政権が独断的に政策を遂行するものなら、職務怠慢や職権乱用で弾劾されたり刑事責任を追及されたりする恐れがあるとのことである。

 

プラユット首相は「我々は向こう10~20年間、政治や民主主義をコントロールしたいとは思っていない。我々をそのようにみている者たちをタイ人とは見なさない」と反論している。来年、総選挙が行われる見通しだが、はたしてその後のタイはどこに向かっていくのであろうか? 行く末を案じている。

 

そのプラユット政権の評価であるが、調査によると、昨年比15%の下落の結果となった。経済状況の改善と汚職撲滅を求める声が高まる一方で、「安全保障」「法の策定・順守」「社会保障」「外交」「経済」の全5項目で評価が悪化した。プラユット首相自身の過去3年間の実績に対する評価は、昨年から8%下落。「決断力」「清廉潔白」など全6項目で悪化した。 厳しい世論が浮き彫りになった結果である。

しかしながら、目下タイは軍事政権ではあるが政治的に安定しており、引き続き、高い支持率があることも事実である。プラユット首相には、高い支持率にあぐらをかかずに、着実に適切な政策を一つひとつ実行していただきたいと切に願っている。

 

現行法では、10年以上勤続で賃金300 日が労働者への補償金(解雇手当※定年退職は会社都合の解雇)として最大であったが、タイ労働省は、長期間にわたり勤続した労働者への補償金(解雇手当)支払いを手厚くしようと内閣に提案している。あらたに、「20 年以上で400 日分」の項目を付け加える案を検討中である。

今後閣議で検討されていくが、労働者が恩恵を受けられる政策については評価したい。