M&A月報 No.221「政治・自転車・鉄道と官民」

タイでは、1年3ヶ月もの歳月をかけた憲法草案が否決され、軍事政権が
少なくてもあと2年は続き、民政復帰は遠のき、経済も低成長が続くであ
ろうし、爆弾事件もあり、景気は決して良くなく、タイより撤退する企業
も増えている、そのような暗い話題が続くこの頃であるが、目下、それら
暗い話題を吹き飛ばすかの如く、ブームなものがある。それは“自転車”で
ある。ロードレーサータイプやマウンテンバイクでバンコク市街地や郊外
を走る。今、自転車が多くのタイ人を魅了し、またステータスの一種にな
っている。毎年、国際的な自転車ロードレースも開催されており、その熱
気はすごいものがある。

8月16日には、皇太子殿下の肝いりで、8月12日に83歳になられた
王妃様の誕生日祝賀行事として、“Bike for Mom”と銘打った自転車による
43kmの走行がバンコク市内で執り行われ、世界記録も更新したが、同じコ
ンセプトで、12月11日には、12月5日で88歳になられる国王陛下の
祝賀行事として首都バンコクなど全国各地で”Bike for Dad” が開催される。
前回同様、皇太子殿下が政府高官を従えられ、バンコク市内を走られる予定
である。
次回は、参加者全員、国王陛下のシンボルカラーである黄色のシャツを着て
の走行となるため、街中が黄一色に染まることになるであろう。
また、ひょっとしたら、Bike for Momの参加人数を超えることも予想され、
1年の間にタイ自身が2回の世界記録を塗り替えるかもしれない。
 
憲法草案が否決されたことを受け国家平和秩序評議会(NCPO)は、新たな
憲法起草委員会のメンバーを任命した。21人で構成される新起草委は18
0日以内に新憲法案をまとめ、来年8月頃に新憲法案の賛否を問う国民投票
が実施される見通しとなった。国民投票で承認されると、17年6月ごろに
総選挙が行われ、民政復帰へと繋がっていく。「普遍的に受け入れられる一
方、タイの伝統や文化、規範に適した」を念頭においた起草作業が再スター
トする。

タクシン氏が韓国メディアとのインタビューで、昨年5月のクーデターに関
して、枢密院や軍を批判する発言を行ったため、軍を中傷したとして名誉毀
損の罪に問われた刑事訴訟の審理が刑事裁判所で開かれたが、同氏は国外逃
亡中のため出廷せず、裁判所は逮捕状を発行した。同氏は汚職防止法違反の
罪に問われて公判中の2008年8月に国外に逃亡し、逃亡生活は7年間に
及ぶ。その間のタクシン派 VS 反タクシン派の政治的対立、妹のインラック
元首相による怠慢且つ脆弱な政権運営、及びクーデター勃発はみなさんご存
知の通りである。禁錮2年の実刑判決を受けているため、帰国すれば即逮捕
収監。

同氏不在のまま、国家改革、和解プロセス、いずれ制定される新憲法の下で
の健全な民政復帰への種々の作業が進んでいるが、一つの懸念事項が、民政
復帰後の首相になって欲しい候補の顔が現状では全く浮かんでこない点にあ
る。
タイ流では、指導者やリーダーは、「俺がやる」ではなく、国民や周辺の声
に少しずつ押し上げられながら、徐々に頭角を現し、なんとなく決まってい
くのがふさわしいと思っている。
軍政が続く向こう2年の間に、そのような御仁が出てくることに期待したい。
そのタクシン元首相のが導入した「一村一品」の製品の売上が好調で、今年は
通年目標の1,000億バーツを上回り、来年は1,500億バーツを目指している。
これまで開発された「一村一品」製品は4万品以上で、そのうち特に完成度が
高く、輸出に向いているのは4,000~5,000品にも上る。今年の輸出額は200
億バーツの見込みで、来年は前年比20%増を期待している。長年の努力が実
っている状況である。「一村一品」は、タイ全国の村それぞれの特徴的な食材
や伝統技術を使って製品を開発するプロジェクトであるが、昨今は、日本の地
方の食品や工芸品などの特産品を、タイに輸入する動きも活発であり、日タイ
双方間の地方の特産品の交流やビジネスとしてのさらなる発展、進化を楽しみ
にしている。
BTS(高架鉄道)やMRT(地下鉄)の車両納入では、独のシーメンスに辛
酸を舐めさせられた日本勢であったが、バンコクの都市鉄道パープルラインで
使用する車両については日本製の導入が決定され、先日、その車両がタイに到
着した。タイの都市鉄道で日本製車両が導入されるのはこれが初めてである。
来年1月までに全21編成63両が搬送され、パープルラインの運行開始は来
年8月を見込んでいる。車両の品質、デザイン、技術等が評価され、今後益々
の受注に繋がっていくことを期待したい。
また、最近話題を集めている鉄道整備と言うと、日本の新幹線の技術を活用し、
バンコクとチェンマイを結ぶ約670キロメートルの高速鉄道を整備する日タ
イ共同事業である。日本で言うと東京-大阪間のイメージになるが、現在の国
鉄で約14,5時間、バスで12,3時間かかるところが、もし新幹線が開通
するとわずか約3時間ということになる。はたして採算性のある事業立案がで
きるのかどうか、関係者には実現化に向け鋭意奮闘していただきたいと思って
いる。 

民間企業も負けてはいない。タイの財閥企業で農業分野や食料品の分野を中核
とするCPグループが、バンコクと東部のリゾート地であるパタヤ、ラヨンを
結ぶ高速鉄道を、飲料水事業を展開するタイ・ビバレッジがバンコクと中南部
の王室の避暑地でもあるホアヒンを結ぶ高速鉄道を整備するという計画が発表
された。そこに香港や中国の企業が参入する予定となっている。日本で言うと
キリンビールが東京と熱海を結び高速鉄道を整備を主導し、そこにアメリカの
企業が参入するようなものであろうか。
一民間の他業種大企業が鉄道整備事業に参入するとは、余程の甘みがあるとい
うことであろう。完成が楽しみな路線である。