M&A月報 No.216「新憲法草案の賛否を問う国民投票と経済特区構想本格始動」

プミポン国王が約1ヶ月半ぶりに外出をされ海軍施設を訪問されたり、

バンコクの王宮で開かれた「戴冠記念日」の式典に出席されたニュー

スが立て続けに報道され、国王の健康を案じていた国民は一安心した。

その後、昨年10月以来体調を崩され入院生活を送っておられた病院を

シリキット王妃と共にご退院された報に接すると、国王のシンボルカラ

である黄色の服を着た大勢の国民が病院や沿道に集まり「国王万歳」

と叫びながら、保養地ホアヒンに向かわれる国王、王妃を見送り、また

ご退院を心より祝った。お元気そうなお姿であり、国民一同、嬉しくそ

して安堵している。

 

プラユット首相は恒例の毎週金曜日のスピーチで、「国王は1946年

から2015年までの70年間を通じて、タイ国民の幸福と利益を第一

に、正義をもってタイ国を統治されて参りました。毎年、戴冠記念日を

お祝いするために、タイ国民は、タイ国旗を掲げると共に自宅やオフィ

スを装飾したり、タンブンをしたり、宗教儀式を行ったり、国王に対す

る宣誓をしたりしますが、国王への敬意としてこれらのことを行うだけ

でなく、国王の名誉の下、社会に対して良い行動を起こすこともできる

のです」と国民に対して述べ、現在取り組んでいる国民和解に向けたも

のとも読み取れるメッセージを送った。

 

「この国に平和をもたらす方法が見つからず、誰も引き下がろうとしな

い。それなら、私は統治権の奪取を決断した」と、当時、陸軍司令官で

あったプラユット首相が宣言、クーデターに踏み切り、発足させた国家

平和秩序評議会(NCPO)が全権を掌握、憲法は停止、政権が崩壊して

から1年が経過した。この間、各機関を立ち上げ、暫定憲法を発足、目

下新憲法制定へ向け進行中であり、戒厳令も解除、代わりに暫定憲法第

44条を発動、米国や日本、EUよりの批判や内政干渉をかわしながら

中国やロシアと急接近、経済は低成長だが、平和・安全・安定の享受

もたらしている暫定政権や首相だが、支持率は高く、大いなる懸念は

任首相の適任者の姿が浮かび上がっていない点であろう。

 

新憲法草案であるが、暫定憲法改正を行った上で草案の賛否を問う国民

投票を実施することが決定し、そして実施して否決された場合、新憲法

の制定作業は振り出しに戻り、暫定政権(軍政)の長期化につながり、

欧米や日本が定義する本来の民主主義が遠のくという指摘があるが、タ

イにはタイのやり方やプロセス、スピードがあるのであって、他国にど

うこう言われる筋合いはないというのが首相や国民の本音であろう。 

むしろ暫定政権の方が、明確な問題意識と進むべき方向性、ポリシーを

もって改革や改善に努め、そしてそれら内容や進捗を、毎週1回、首相

の口から国民に向けて、直接、分かりやすく丁寧に情報開示や説明をし、

国民と共により良い国家創生に向け歩んでいくという姿勢が鮮明だ。そ

して大多数の国民もそれを支持しているのである。 

 

毎年紹介している始耕祭であるが、今年も皇太子殿下ご出席の下、無事

執り行われた。儀式では、広場の中に特設された畑で、祭主を先頭に2頭

の雄牛が「黄金のすき」を引き、女性らが種をまく。その後、牛にはコ

メ、酒、草、豆、トウモロコシなど7種類のえさが与えられる。

今年は草とゴマを選び、「豊富な雨量で稲作は豊作、穀物や果物など食

べ物も豊富な収穫」と予言された。嬉しい予言である。 また、長さの違

う種類の反物の中から1枚を選んで天候を占う儀式では、降雨量の多さ

が予想され、「高地での稲作には十分な水量だが、低地の農地はダメー

ジを受けるかも知れない」との占いが示された。 

プラユット首相肝煎りの経済特区であるが、国家経済社会開発庁や国家

経済特区開発委員会主導で、ミャンマー国境の北部ターク県、ラオス国

境の東北部ムクダハン県、カンボジア国境の東部トラート県、サケーオ

県、そしてマレーシア国境の南部ソンクラー県の5県がまずはメインで

開発されていくことになる。 

国境沿いを開発しタイ周辺のアセアン隣国と連結しながら生産拠点として

創出していくのが目的であり、厚い恩典やインセンティブを与え、インフ

ラを充実させ、ワンストップサービスで様々な申請や手続きにも迅速で柔

軟な対応をしていく。特に隣国との関連事業に関わるが、資金力が小さい

中小企業をターゲットとし、隣国の熟練労働者のタイ出入国や就労も認め、

低賃金での労働力確保も促進していく。 

タイとしては、現状、賃金の上昇に見合うだけの能力を備えた労働者の不

足や、研究開発(R&D)への投資が不十分であるという認識であり、日

本からの技術移転による産業高度化への取り組みが必要との考えである。

タイの主要輸出品である自動車部品やハードディスクなど、賃金の低い周

辺生産国との競争が激化している中、労働集約的な生産は周辺国に移し、

タイ国内ではより付加価値の高い製品や研究開発に特化するような構造改

革を進めていく方針である。 

経済特区では、現状、農業、漁業、セラミック製品製造、繊維衣類業、皮

革生産業、家具及びその部品製造業、宝石・ジュエリー及びその部品生産

業、自動車部品・エンジン製造業、機械・設備及びその部品製造業、電気

電子産業、物流業、ツーリズム促進や活動をサポートする産業、そして工

業団地などの業種・産業の開発や進出、促進をターゲットとしている。 

タイとしては、教育改革にも努め、労働者を求める市場の要求に沿って能

力やスキルを開発、改善し、そしてアセアン経済共同体発足前に大規模、

中規模、小規模事業を結合させ、一つの経済圏において混合、調和させて

いく用意がある。そしてパートナー諸国と、着実且つ安定した経済を築き

上げると共に、お互いに協調、支援、成長、繁栄していかなければならな

いことを強く理解している。 

期間を要する政策もあるが、持続的発展を促進する強い経済の土台を築き

上げるためにあらゆる努力を惜しまない姿勢を鮮明にしている。

タイは今、重要な岐路に立っているが、憲法改正や民政移管に向けた取組

みだけでなく、そのような時だからこそ、さらなる教育改革や他国との外

交的結束、経済連携への強化に向けた国家努力を惜しまず、安定し且つ進

化した国家へと懸命に舵を切り始めているのである。

タイが今後どのように生まれ変わるか、筆者も過程を見守りつつ、楽しみ

にしている。