M&A月報 No.189 恩赦法案で再び揺れるタイ王国



タイの著名な社会批評家が講演で、
“タクシン元首相は、出そうで出ない苦しい便秘のよう。

いつかはその状況を抜け出せるが、タイを苦しめる困った存在だ“
と語ったことが話題となっている。


タクシン派と反タクシン派の根強い対立に付いても各々の矛盾点を指摘し、


“草の根の人々の代表であるはずの赤組は、なぜ支持政党のタイ貢献党に

権力の分散を求めず、そしてまた、なぜ政府の人気取り政策の是非を議論しないのか”


と首尾一貫しない活動を批判しつつも、一方において、反タクシン派の黄組に対しては、

“国民への権力分散を受け入れるべきで、それこそが国民和解をもたらすのだ。

理解して欲しい”


と述べると共に、既得権を握るエリート層への、


“狭い了見から脱し、あなた達自身が近代化すべきだ”

との注文も忘れなかった。



恩赦法案をめぐる対立が益々激しさを増している。
現在、恩赦法案は、8月招集の国会で第1読会を通過したが、

これまで対象外としてきたタクシン元首相や赤・黄組幹部なども対象と

なるよう法案が修正されたことに対し、野党民主党や反タクシン派グループは

強く反発しており、大規模な抗議集会がついにキックオフする。


修正法案は第2読会における審議に進むが、殺人罪等で検察当局に

起訴されることになったアピシット民主党党首は、

“万が一、国会で法案が成立すれば社会対立や分裂を引き起こし、

市民間の戦争を引き起こす”


と強い警告を発した。
自身も恩赦の対象になるにも関わらずである。

それ程、タクシン元首相の恩赦に危機感を抱いているのである。


同修正法案に付いて、張本人のタクシン元首相は


“将来世代のため、すべてをゼロにリセットする必要がある。
私自身のためではなく、タイを前進させるために必要なのである。
対立してきた私たちはじきに死ぬが、子どもたちはここで生きていかなくてはならない。
ASEAN経済共同体が間もなく発足し、競争が激しくなる。
今のうちに国内対立を終わらせなければならない“


と述べ、その必要性を訴えた。


恩赦法案は今後のタイの行く末を左右する重要な国家的事項であり、

益々当法案を巡るドタバタ劇を含め、目が離せない状況となっている。


ところで、前出の社会批評家は、インラック首相について、

いつもおしゃれできれいにしている若い女性であるが、

何事にも気楽で深刻さがないという評価をしているが、

政権は早いもので3年目に突入している。


首相の存在感は相変わらず薄く、これといって目立った成果はないが

失策も少なく、軍との関係も良好であると言えよう。

この安定状況が続く限り、恩赦法案等で反発する民主党は、

次回の選挙が来るのを待っていても、勝利して政権の座に

返り咲くことは難しいであろう。


近頃のインラック首相の外遊の際には、多くの有名企業の経営者も同行し、

政権との距離は近くなっている。これまでのようなスマートな闘い方では、
スポンサー離れも続き、資金不足に陥ることは明白であり、

そうなると民主党は次回選挙で勝利することはほぼ不可能となる。


従来の支持層ではなく、過激な大衆に向けてアピールし、デモによって
一挙に政権を打倒する道を選んだのか?過激な言葉を使うようになったり、
また、黄色組との距離も置きはじめた途端に民主党のお膝元である

タイ南部の天然ゴム農家が政府に対する高値買取を要求するデモを

起こすなど、民主党の議員が南部各地で農家を煽ったり、

デモ参加者への支援を行ったと言われても仕方がないであろう。


大衆運動路線を進めることで、かつての空港占拠事件や大規模衝突の

ような国家を揺るがす大事件が起こることはなんとしても避けなければならない。


確かにインラック政権によるばらまき政策のひずみが表面化して

いることは否めない。

天然ゴムの国際価格は低迷し、物価上昇との二重苦に直面する
ゴム農家は市場価格より約5割高く買い上げるというコメ農家だけを

優遇する政策に反発。政府に対し、市場価格を約4割上回る価格での

買い上げを要求、デモは他農作物の農家を巻き込み、全土へ一気に広がった。


タイではコメは主力農作物である。インラック政権は当時、

地方と都市の経済格差を是正し、且つ政治的対立の解消には

コメ優遇制度は効果的とし、バラマキ政策を行ったが、

残念ながら、現状では皮肉にもそれが仇となって、そしてまた

恩赦法案のこともあり、対立を一層深化させる事態を招いている。
コメ優遇制度では、年平均2000億バーツの赤字が生じていると

報じられている。


タイの経済、景気が減速傾向にある中、統計調査が発表された。
失業率は前年同月比で0.2%微増して0.8%。
失業者は31万7000人で、前年同月比9万3000人増加した。

地域別では、南部の失業率が最高の1.2%で、中部と北部が

同じ0.9%、バンコク0.7%、東北部0.6%の結果となった。


また、就業者数は前年同月から59万人減少。業種別にみると、

農業就業者は1622万人で前年同月比24万人減り、

非農業は2273万人で同35万人減少した。いずれにしても、

引き続き低い失業率であるが、景気減速の傾向が、

失業率にすぐさま反映された結果となった。



最近のバンコク住民の最大関心事は、物価上昇とのニュースが報じられた。

約4割が物価問題を挙げ、2位以下の渋滞、政府政策を大きく引き離している。

2位以下は、渋滞問題11.8%、政府政策10.3%であった。


一方、政府への要望事項では、物価上昇の解決(43.1%)、

社会の分裂を招く政治対立の解決(21.4%)、汚職対策(15%)などが挙がった。
また、 「最近の政治ニュースがストレスになっているか」の問いに対しては、

約8割が「はい」と回答した。

最近は、意外とマイペンライではなく、神経過敏なタイ人が多いようである。


ストレス解消法はと聞くと、


・前向き思考の努力:48.9%
・運動:35.1%
・趣味:32.9%
・ソーシャルネットワークの利用:24.9%
・寺参り/タンブン:18.8%


であった。

前向きな思考をしなければならないと考えること自体がストレスに

繋がるのではないか?と思うと共に、そう考えている人の多さが、

今の国家の状況を物語っているようにも思う。
一方、これまた意外と寺参り/タンブンの割合が低いことに驚いている。