M&A月報 No.167号 「総選挙後」


7月3日、3年半振りの総選挙の結果が出た。
当初の予想に反して、特に若年層の女性票が多く流れ、タクシン元首相の妹
インラック氏(44歳)率いるタイ貢献党の圧勝となった。
 
単独での過半数越えは無いと見られていただけに、この結果には大きな衝撃が
走っている。
民主党を率いるアピシット氏は完敗を認め党首を辞任した。
これでタイでは初の女性首相の誕生となる可能性が極めて大きくなった。
 
未だ44歳の若さで、会社経営の経験はあっても、政治の世界では全くの未経験が
不安材料になっている。
読んでいる書物は女性専用の雑誌のみと、早くもマスコミの攻撃を受け出している。
 
選挙結果は以下の通り:
タイ貢献党:265
民主党:159
タイの誇り党:34
タイ国民発展党:19
その他:23
尚、投票率は75%であった。
 
 
前回タクシン氏率いるタイ貢献党は、単独で政権の座に着いたが、造反が起き、
過半数割れの事態を引き起こした苦い経験があり、
タイ国民発展党他弱小4党を連立政権に引き込み、都合6党での政権担当の
仕組みを構築した。議席数は与党300、野党200議席となる。
 
27日に下院選当選者500人の内、計496人の当選が確認され、国会召集に
必要な475人以上(95%以上)が確定したことにより、国会召集の勅令が
同日発令された。
 
国会の開会式典は8月1日に執り行われた後、下院議長選任、
首班指名選挙と続く。新首相が組閣作業を行い、国王の承認を得て
8月10日前後に新内閣が発足する見込みである。
 
インラック氏は政権の座に付くと全ての政治犯の恩赦を検討すると公約で述べており、
今後タクシン氏の恩赦、帰国の実現に注目が集まりそうである。
 
同氏は娘の12月に計画されている結婚式には是非参加したいと希望を
表明しているが、野党に下野したアピシット氏は、今後建設的な野党となり、
良い政策には賛成し、国の融和に尽力すると述べているが、
タクシン氏の恩赦には強く反対しており、これから年末に掛けてのやり取りに
注目が集まる予測である。
 
経済界は現在のバンコクの最低賃金215バーツが300バーツに上がる
公約に強い懸念を表明しており、いくら法人税を30%から20%に引き下げても、
特に中小企業に与える影響は大き過ぎると、公約の見直しを求めている。
 
今回示された25項目の公約は以下の通り:
 
1. 海岸沿いでの堤防の建設。
2. 国境地帯の流域開発、水の導入。
3. 首都圏で10本の電鉄を整備、運賃は20バーツ。
4. 首都圏と近県の鉄道の複線化。
5. 南部でランドブリッジの建設。
6. 麻薬は12ヶ月で撲滅、貧困は4年で無くす。
7. 世帯の50万バーツ以下の債務は返済を3年間猶予。
8. 医療費一律30バーツの強化。
9. 地方への予算割当てを25%に引き上げ。
10. 米の担保融資価格を15,000バーツとする。
11. 農家向けにクレジット カードを発行。
12. 法人税を2013年までに20%に引き下げる。
13. 学生の起業、就職に10億バーツの基金創設。
14. 共同投資の基金創設。
15. 初めての住宅購入に税還付や控除拡大。
16. 初めての自動車購入者に税還付。
17. 石油基金の解散。
18. 学生にPCの配布。
19. 最低賃金を300バーツに引き上げ。
20. 大卒の初任給は15,000バーツ以上とする。
21. スワナプームを国際空港のハブにする。
22. 公共の場でのインターネットの無料化。
23. 国家資産基金の創設。
24. 南部3県を特別行政区に指定。
25. 職業学校での訓練無料化。
 
選挙協力をしたUDD(赤シャツ)は最低2名の大臣指名を要求し、
且つ武力による鎮圧を指示した幹部を法廷に引っ張り出し、
責任を追及する事も要求しだし、もし不発の場合は怒り狂うとの声明も出した。
 
これをインラック氏が実現すると、国民の融和が遠のき、彼女に取っては
非常に頭の痛い問題を提起しそうである。
 
亡命先でタクシン氏が8台の携帯電話を机に置き、種々の人々と交信を
行っている写真が新聞に公表された。
組閣に当っての各種陳情、圧力も掛けられている事が容易に想像出来るが、
同氏はあくまでも、最重要課題は国民の融和であると述べている。
 
アピシット首相は職員より赤いバラを貰い、眼に涙を浮かべ、
首相府を後にする写真が掲載された。
彼のお人柄が感じられる一葉であった。
 
 
奇妙な事件が新聞紙上を賑わしている。
それは20年前に、あるドイツの建設会社が当地で高速道路とその運営を手がけた。
しかし、相次ぐタイ政府の契約違反の行為があり、その企業は倒産、
その後の裁判で、タイ政府は約44億円の債務の支払いを命じられているが、
それに応じようとはしていない。
 
この件を担当しているドイツの会計会社が、なんとミュンヘン空港に到着中の
皇太子殿下が使用している飛行機を差し押さえたのである。
この飛行機の価値は60億~70億円程度の価値があると言われている。
 
これに対し、タイ外務省は、この飛行機はタイ政府の所有物では無く、
皇太子殿下のものであり、早期の解除を要求した。
調停を持ち込まれたドイツの裁判所は、25億円の銀行保証付きの保証金で
飛行機は皇太子殿下に戻す判決を下した。
 
これに伴いタイ最高検察庁長官が会見し、皇太子殿下が当該保証金を
差し入れる必要はないとの意向を示されていることを明らかにすると共に、
殿下はいかなる法律も犯していないし、また、タイ政府とドイツの裁判所間の
争いにも関与していない、と述べた。
 
駐タイ・ドイツ大使館がタイ国民の感情を逆撫でするような声明を
出していることもあり、今後の両国の対応に注目が集まっている。