M&A月報 No.167号 「下院解散~総選挙」

 

昨年の5月騒乱時は、黄色組(反タクシン派)VS赤組(タクシン派)は
武器・武力をもって戦ったが、今年の5月以降は、今度は票集めの
政策論争をもっての民主的な総選挙で戦うことになった。
 
9日、プミポン国王陛下の勅令へのご署名によって下院解散、
ついに3年半ぶりの総選挙となる。
選挙日は7月3日。それまで、タイ全土において熾烈な選挙戦、
思惑や利権などが錯綜する駆け引きが嵩じられることになる。
 
アピシット首相は昨年から今年年内の解散総選挙を公言、
今年2月の国会で憲法修正案を通過させ、その上で関係法規の整備、
選挙関連基本3法可決、憲法裁判所による合憲審査を経た上で、
国王陛下へ下院解散の勅令を賜るための文書を奏上、5月上旬の
下院解散、ほぼ思惑通りに外堀を埋めたと言えよう。
 
その流れに準じ、各党の動きが活発化、タレント議員立候補などの
情報が表面化、選挙後の連立も想定した言動が飛び交う中、
特に最大野党であるタクシン派のタイ貢献党のマニュフェストが発表され、
世論も一気にヒートアップ、バラマキ型公約は貧困層の多い地方には有効、
タクシン派優勢となるも、連立与党政権も最後の閣議でバラマキ型、
駆け込み型と呼ばれる人気取り政策を含めた大多数の案件を集中審議、
タクシン派に対抗した。
 
下院解散となると、少なからず中央官庁、公的機関も影響を受ける。
関係閣僚及び閣僚が任命する委員から成るBOI(タイ国投資委員会)の
本委員会、小委員会は下院解散と同時に解散。
大型投資案件の審査~認可は、次回委員任命まで相当期間延期される
ことになり、タイへの投資促進も一時的な中断を余儀なくされることになる。
 
首相は下院解散に伴い、混迷が続くタイ政治状況を振り返りつつ、

「国民の仕事がいよいよ始まる。正しい判断をして欲しい。
国家が前進するか後進するか現状維持でいるのかの判断の時だ」
 
と国民に向けたメッセージを発した。

前回の総選挙で敗北しつつも司法判断で政権についた与党民主党。
国民の負託を受け政権の正当性を証明する戦いになる。
一方、タクシン氏も野党タイ貢献党を率い、帰国実現、権力奪回に向けた
戦いとなる。
 
そのタクシン氏は、やはり自身の妹を貢献党の党首として擁立した。
インラック・シナワット氏。
タクシン一族の会社で要職を歴任。
政治手腕は未知数。
民主党からすればスキャンダルに関する格好の標的。
タクシン色を全面に押し出した最後の大きな賭けに出たと言えよう。
 
インラック氏はチェンマイから、首相はバンコクから、
それぞれ選挙運動をスタート、
タクシンのクローン“インラック”VS 現首相“アピシット”の
天下分け目の戦いが始まった。
今の日本では考えられない、タイならではの対決構図であろう。
 
タイ初の女性首相候補として、才色兼備、特に若者の人気を集める
可能性があるインラック氏の支持率はじわりじわりと上がっているようで、
メディアにも大きく取り上げられている。
 
“引き続き兄を支持してくれる人が多くいる。私は女性で政治経験はないが、
私の血には兄と同じ政治が流れている。国民への奉仕の仕方は兄から学んできた。
兄と同様の信頼をして欲しい”
 
“女性だからこそ出来ることがある。国のために誠心誠意働く。
兄が貢献党の政策を打ち出して私がそれを実行する。
兄の失脚後、皆さんははたして幸せだったであろうか?
皆さんの中身の消えたポケットに幸せをお金を入れなければならない。
兄であろうと誰であろうと国家、国民のためになる良い意見には耳を傾けるし、
特に経済問題に付いて優先課題としている“
 
“国民和解も進めていく。あらゆる政治グループから代表者を募り、委員会を設置。
公平な形で議論をし、2006年クーデター以降の政治犯の恩赦を検討していく“
とも述べた。
これは明らかにタクシン氏を対象、早期の帰国実現を目指した主張であろう。
インラック・フィーバーは選挙戦終盤まで続きそうである。
 
一方、首相は
“民主党は貢献党に負けず劣らず依然高い人気、支持を得ている。
はたして同党が500議席の過半数超を押さえることができるであろうか?
世論調査は常に一進一退。
現時点でははっきりしていることは何もない。
そしてインラック氏は選挙戦に流星の如く現れてきたばかりだから人気があるだけだ“
 
その世論調査では、インラック氏は、忍耐力、信頼、政治倫理、知識・能力、
誠実さ、リーダーシップなどの全18項目全てにおいて評価を上げた一方、
首相はリーダーシップ以外は評価を下げた結果となっている。
 
国王陛下が脊椎-腹腔短絡術という手術を受けられた。
最近の歩行障害に対する治療で、側脳室にたまった脳せき髄液を
背中側から腹部に抜くというものである。
 
術後経過は良好で、先日は、入院中の病院からチャオプラヤ川岸に下り、
川の眺めを楽しまれた。
術後にも関わらず、下院解散の勅令へのご署名、上院議長及び
枢密顧問官を任命されるなど精力的にご政務就かれておられた。
ともかく、お元気そうな国王を久々に拝見する事が出来、
安堵の気持ちになっている。
 
毎年ご紹介している始耕祭であるが、今年も皇太子殿下ご出席の下
執り行われた。
儀式では、広場の中に特設された畑で、祭主を先頭に2頭の雄牛が
「黄金のすき」を引き、女性らが種をまく。
その後、牛にはコメ、酒、草、豆、トウモロコシなど7種類のえさが与えられる。
 
牛が最初に口にしたのは、草と酒で「ほど良い水量で、稲作や農作
物に恵まれ、交通が便利で国際貿易は拡大」と予言された。
反物で占う天候も降雨量は適度で豊作と出た。
堅調な経済同様、今年も農業は順調とのご選択、嬉しく信じたい。
 
「タイは相変わらず美しいビーチばかり」という不満が観光業界から飛び出した。
政府に一貫した政策がないこと、関連政府機関同士の連携がなく
バラバラであること、シンガポールはカジノ解禁、中国はディズニーランドの
誘致に成功しているのにタイには魅力的な観光ビジョンがないことが
浮き彫りになってきている。
観光資源には事欠かない微笑の国タイ。
観光国としてのさらなる飛躍を期待したい。
 
昨年5月騒乱、治安部隊による赤組強制排除「ラチャプラソン53」作戦から
1年を迎えた19日、赤組はかつて占拠した交差点で1万規模の
反政府集会を開いた。
警察隊との衝突等もなく、時期が時期だけに無事散会したことに
安堵しているが、100人近くが死亡、1,400人以上が負傷した大事件から
1年経つにも関わらず死傷者に関する捜査が一向に進んでいないことを懸念している。
 
タクシン派が政権を勝ち取ったら捜査は進むのであろうか?
タイがゆえ、時間はかかるだろうが、真相が究明され、二度とあのような
騒乱が起きぬよう、再発防止に国家として取り組んでいって貰いたいと念じている。