M&A月報No.79 「国王スピーチ2003」

 

例年、国王は自分の誕生日の12月5日に国民に向けてスピーチをされる。かなり際どい事を率直に言われるので、毎年大いに注目を集めている。
昨年は麻薬に付き言及された。

これを受け、今年、タクシン首相は麻薬撲滅運動を展開した。一年が経過し、総括が発表された。
逮捕された関係者 52,374人
リハビリに入った常用者 327,224人
麻薬関係より手を洗った者 31,224人
押収した麻薬 72億バーツ

タクシン首相は勝利宣言をし、成果は予想以上であったし、雪達磨式に拡大していた問題も収束に向かった。又、既にこの問題はコントロール出来る規模にまで縮小し、もはや一般市民に与える影響はほぼ無くなったと、胸を張って見せた。

しかしこの一年で死亡した警察官31名、負傷した警官36名、殺された容疑者2,500名に批判も出ている。
野党より、”現場は首相に良い結果のみを報告し、実態を曲げている”。又、殺された者の中に無罪の者が多数居る”等の批判を展開している。

タクシン首相は上記の成果に付き、国王よりお褒めのお言葉を頂ける事を大いに期待し、スピーチの会場に乗り込んだのでは無いかと推測される。国王は例年通り、首相以下を目の前に、約2時間に亘り演説を行いTV、ラジオで全国に中継された。

国王はまず、
「首相は他の人より忠告をされる事を好まない事は良く知っているが、今日は一言言わねば成らぬ」と切り出した。

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『私が40~50歳の頃、何時も母親は、”お前は偉くは成って来たが、自分を見失ってはならない。有頂天に成り、足が地を離れる様な事があっては成らぬ”
と、何時も諭されて来た。何か良い事をしても、自惚れるなと言われても来た。

今回の麻薬の件で、2,500人にも上る死者が出た事は憂慮すべき事態である。実際にはもっと多くの死者が出たのではないか。タクシン首相は2,500人の人を殺したと巷では言われているが、首相はそれをどう感じているのか。首相はこの後始末を、担当大臣とか公務員に任せているが、自己の責任はどう思っているのか。

首相は”何事にも全責任を取ると言っている”と言う事は非難される事にも全責任を取らねば成らない。
”貴方はただ一人決定権がある”と言う事は何事も貴方に戻ってくる。

良い事を行い、国民が恩恵に浴したのであれば、貴方も又その恩恵を受けるであろう。私の言った事に怒っては成らない。自分のした事を誇りに思いなさい。
私も国王として貴方と同じ様な立場であった事もある。自分を諌める者は誰も無く、母親だけであった。
其の母も、もはやここには居ない。首相はもっとメディアの声に耳を傾けるべきで、弾圧すべきでは無い』

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最後に2,500人に付き、一人一人の殺された経緯の調査を命じられ、その結果を国民や国際社会に発表する事を求められた。

また、『政府提案の、新しい試みである、生徒が先生を教育する案は納得出来ぬ。又、生徒が質問したら生意気だと怒る様な先生であっては成らぬ。そういった土壌が出来ると、誰も目上の人に質問をしなくなる。
こんな国に成っては成らぬ。生徒が先生の役目を出来るわけが無い。教育では思い上がりより、協調の精神を教える事が大事である』

と諭された。

翌日、タクシン首相は”国王よりの助言は父から息子への教え”として受け止め、国王に対し深い感謝の気持ちを表明し、多数の犠牲者の調査も早速開始し、国民への公表を約束した。

世界広しといえ、首相を目の前に置き、全国中継のTV、ラジオの放映の元、こういった事をずけずけと言う国王は、タイのみでは無いかと、毎年感銘を受けると同時に羨ましく感じる。

特に最高の権威者の首相に、我々が言いたい事を代弁する情報収集能力の凄さもにも感銘を覚える。タイとは幸せな国である。

タクシン首相は『タイは援助を受ける国では無く、未だ僅かではあるが援助をする国に成った。もはや外国よりの援助は不要である。今後各国とは同等の立場のパートナーとして付き合って行く』と、その所信を述べた。これは日本を意識しての発言と感じた。

-好ましくないタイへの進出はお断りしよう
-名義借りでの会社設立も厳しく取り締まろう
-法人税を支払わぬ企業には厳しい監査を実施しよう-必要無い人材にはVISA、労働許可書を発行しない様 にしよう
等々の施策を今後実施してくる様相を呈して来た。

東京でアジアの10各国の代表を集め会議が開催された。アジアの諸国は日本に取って最も大切と言いながら、このタクシン首相のメッセージは外務省より小泉首相に伝わっているのであろうか?

最も注目しているAFTA問題は来年に先送り、国民は喘いでいると言うのに、援助は不要と公言している国を含め、30億ドルものばら撒きでご機嫌を取る施策。
タクシン首相にバカにされる様な状況で、其の国に住む事は、次第に済み心地が悪くなって来る。
母国日本よ、しっかりして欲しい。