M&A月報No.149 「国王陛下健康不安に関する風説の流布騒動とドタバタアピシット首相」

 

未だ迷走を続ける警察庁長官人事であるが、アピシット首相は自身が
長官に推しているパティープ氏を長官代理に任命した。
それに対し、対抗馬のチュンポーン氏を長官代理に推していたステープ
副首相寄りのニポン首相秘書官(民主党副党首)は抗議、首相に辞表を
叩き出し、辞任した。

首相秘書官の後任には、バンコクの路線バス4,000台のリース計画等、
連立のパートナーの政党が打ち出してきた政策に対し次々にストップをかけ、
連立与党内から大きな不満を受けていたコープサク副首相を指名し、
後任の副首相には、調整能力に長け、連立与党間の関係改善・円滑化が
期待されるトライロン下院議員を指名した。

これら御仁には、新ポスト下において、現在目下、低空飛行を続けている
首相の求心力挽回への手腕が期待される。

一方、野党もこの警察庁長官人事のドタバタ劇を黙って指をくわえて
見ているだけではなかった。

タクシン派のタイ貢献党は、当人事において不正且つ怠慢があったとして、
国家汚職防止取締委員会(NACC =National Anti-Corruption Commission)に
告発することを表明。

「アピシット首相によるパティープ氏の長官代行任命はいずれ同氏を長官に
するための布石であることが明らかである。警察庁長官は警察委員会で
選出されるべきである。当初、パティープ氏が長官に選出されなかったのに対し、
首相は他候補者を長官に推すべきだった。しかしながら、それをしなかった。
尚且つ、今は、その警察委員会を開催し、すみやかに長官を選出することを
怠っている」

とアピシット首相を糾弾している。

まさに正念場を迎えているアピシット首相に対し、遠隔地より様々な攻撃を
仕掛けているタクシン氏であるが、

「次回総選挙で、もしタイ貢献党が過半数を獲得したらタイに帰国し、
国家分裂問題や経済問題を解決する。支持者への大きな借りも返したい」

と述べた。

500万人もの署名を集めた恩赦誓願に関しては、政府の手中にある限り
多くは期待出来ないとしているが、「中佐」階級と国王陛下が付与された勲章が
剥奪されかねない状況にも関わらず、引き続き、復権に向けた呆れるほどの
執念深さを国内外にアピールしており、尚且つ赤組による抗議集会も一向に
収まりそうもない。

また、クメール遺跡“プレアビヒア”をめぐる国境紛争問題で対立する隣国
カンボジアのフンセン首相が

「友人であるタクシン氏が未だ海外逃亡中であることに深い同情を
している。彼が望むならカンボジアへの永久亡命を認めよう。
且つ住宅も用意しよう。そして経済顧問に就任して頂きたい。
カンボジアはタクシンウェルカムだ」

と現政権を挑発するようなコメントを述べ、それに対し、アピシット首相が
「国家間の友好関係か?個人的友情か?」と警告するなど、
アピシット首相のタクシン・アレルギーが、また一段と強くなりそうである。

昨年10月の黄色組による騒乱を覚えておらえるであろうか?
黄色組(民主主義市民連合/ PAD)が国会を封鎖、それに対し
警察が武力行使、双方合わせ死者2名、負傷者478人を出した
92年の流血事件以来の惨事である。

その際、PAD側と交渉を続け、対話による解決が期待されたパイプ役で
あったチャワリット氏(当時副首相)は騒乱当日に辞任、早々に御役御免と
なったわけだが、そのチャワリット氏がタイ貢献党に入党したことが報じられた。

チャワリット氏はプレム枢密院議長派だった御仁である。
そのチャワリット氏がタクシン派であるタイ貢献党に入党した背景には、
昨年のPAD騒乱時の武力行使に関し、NACCが刑事責任ありと判断したことに
あると言われている。

本人はあくまでも「国民分断問題解決、つまり国民和解及び国家発展に
貢献するため」と言っているが、プレム派分裂の印象は拭えない。

それに対し、元ボスであるプレム議長は、

「彼(チャワリット氏)は友人だが、国家・国民を裏切ることのない様、
(タイ貢献党への入党に付き)よくよく考えて欲しい。これは非難ではないし、
彼への悪意もない。あくまでも忠告である」

と述べたが、その後もタクシン氏の士官候補生学校の同期生52人が
タイ貢献党に入党するなど、軍の一部がプレム議長に対し挑戦状を
叩き付けた様相を呈している。

タイ貢献党への大量入党に付き、タイ貢献党=タクシン派の勢いが強まることが
警戒されており、今後の政局から益々目が離せなくなってきた。

5日早朝、タイ南部からバンコクに向かっていたタイ国鉄の列車が王室保養地
としても有名なホアヒン付近を走行中に脱線、10名が死亡、約80名が
重軽傷という大惨事が起こった。

当初、事故時は大雨だったことよりスリップが原因かと見られていたが、
調査の結果、当日、事故地点の1つ前の駅を停車せず、且つ減速しないまま
次の駅付近まで進入していたことが明らかになった上に、事故発生後より
運転手が行方不明だったことから、運転手による居眠り運転が原因との
見方が強まっていた。

事実、この運転手は事件直後、一目散に逃走したのだが、4日後に警察に出頭。
「風邪で薬を服用した事と高血圧の持病が原因で運転中に意識が朦朧として
しまった」と述べているが、即座にタイ国鉄を懲戒解雇処分となった。
また、29日にも、バンコク郊外において、雨で線路がずれたことが原因と
見られる脱線事故が起きている。

タイでは、特にバス、トラックなどの大型車両が交通事故を起こすと、
大抵、運転手は自分の過失を認識しながら逃走する。
タイ国鉄、つまり列車の場合でも例外ではなかったという訳である。

昨今、タイ国鉄管理下の列車の脱線事故が後を絶たない。
管理不足もさることながら、慢性赤字による線路その他設備の定期点検や
修理など、ろくに行われていないのではないか?

設備が老朽化し、人員不足も進む中、安全の名の下の信頼性を高める努力が
今求められていると報道された矢先、国鉄労組が、今回の事故の経営責任を
追及する形で総裁の辞任を要求、一方、車両の老朽化に伴い安全が保証
できない点、及び機関士の過剰労働の改善を求めストを決行。

タイ南部線は20日現在、全面運休の状況となり、多方面からの非難・批判が、
利用者を人質にとったスト行為を起こした労組だけでなく、労使交渉もまま
ならない国鉄経営陣や管理責任のある政府に向けられた。
特に物流に対する影響は大きく、部品等の物流遅延によりメーカーが受ける
打撃も計り知れない。

国王陛下が憂慮されておられるが、連日の大雨による問題が、特に地方で
深刻となっている。

タイ南部チュムポーン県では各地で浸水や冠水被害、北部のランパーン県
でも300世帯以上に停電・道路冠水の被害、 ターク県でも何地区かで陸の
孤島状態になるなど、被害は拡大の一途を辿っている。

バンコクを流れるチャオプラヤー川の氾濫の影響も大きく、中部アユタヤ県や
シンブリー県などで被害が出始めている。

1996年の9月にも、チャオプラヤ川が氾濫し、深刻な被害がでたが、
その時国王陛下が政府に対し、洪水対策を早急に行う様、異例とも言える
アドバイスをされておられる。
その時の教訓が今この時活かされているのか、政府主導による迅速な
対策・対応に注目したい。

先月、国王陛下が体調不良でご入院されたが、その後、タイ全土の国民が
国王陛下のご健康回復を願う中、国王陛下のご病状は快方に向かわれている。

そんな折、株式市場に国王陛下の健康不安説が流れ、一時、SET指数が
下落した。
どうやら健康不安説を懸念する海外投資家らが売りに出したとのことである。

当初、この噂は香港市場とシンガポール市場から出たものらしいと言われ、
「風説よりも公式発表をよく見て欲しい。また国王陛下に対する噂はとても
嘆かわしく無礼なことである」と証券関係者は一様に述べ、またアピシット首相も、
この不適切な風説の流布の出所についての調査を命じた。

その矢先、今後は、反タクシン派の上院議員らが、今回の不適切な噂の元は
タクシン元首相の実弟パヤップ氏に近い人物2人と主張。
それに対し、タクシン氏の顧問弁護士のノパドン元財務相は、その噂を
真っ向から否定。
正当なプロセスで真相究明を行い、証拠を然るべき機関に調査させた上で
発表するべきであると批判した。
(尚、11月1日時点で、タイ警察当局は、国王陛下の健康不安に関する風説の
流布及びSET市場の株価操作の容疑で2名の証券関係の男女を逮捕している)

王室事務局は「国王陛下の肺の炎症はほぼ完治され、熱もなく、
快方に向かわれているが、栄養状態のご回復を待つため、しばらくのご入院が
必要である」との声明を発表。

また、チュラポン王女も、

「国王の心臓と肺炎には何ら懸念はなく、現在、国王はリハビリに努められている。
何日間もベッドに横になった後のリハビリは当然のことで、このことが国王が
まだ病院におられるたった一つの理由だ」

と述べられ、事態の沈静化に努められた。

23日のチュラロンコーン大王記念日には、約1ヶ月ぶりに公の場にお姿を
お見せになり、病院に来ていた国王陛下のご健康回復と長寿を願う多くの
人々が歓声に沸くと共に安堵の胸を撫で下ろした。

ホアヒンで開かれていたASEAN首脳会談が無事閉幕した。
会談では、ASEANの人権擁護・監視に取り組む政府間人権委員会の設立が
決まった他、政治、治安、経済、社会、文化などの各分野において協力して
いくことで全会一致、合意した。

日程や開催地変更、中止を経てようやく開催されたASEAN会議であるが、
議長国であるタイ及びアピシット首相は、辛うじて面目を保ったようである。

アピシット首相はASEAN首脳会談の成功に満足しているようであるが、
世論の同首相への評価は依然厳しいものであることが発表された。

最新の世論調査の結果では、タクシン氏の支持率がアピシット首相を
3ポイント上回った。

清潔でクリーンなイメージは衰えることはないが、政策効果と総合的な
指導力と言った点でアピシット首相の評価は低く、「セミナーや講演が多い
イメージがある。美しい言葉も大いに結構だが、それが何の結果にも
繋がっていない」と世論は厳しい。

一方、タクシン氏に関しては、民衆に根ざした政策に対する評価が未だ高く、
依然として地方での高支持に繋がっている。

じわりじわりとタクシン待望論が出てきていることに、嫌な予感を感じている。