M&A月報No.148 「アピシット首相まさに正念場」

 

迷走している次期警察庁長官人事であるが、アピシット首相は何を考えて
いるのか、今月末で退官が決まっている現長官に、閑職に押しやる辞令を
手渡した。

背景には、昨年10月7日の反政府デモ(黄色組)鎮圧で死者が出た事に対し、
NACC(National Anti-Corruption Commission)が、同氏に対し有罪との意向を
示した事を受けてと言われている。でも何故この時期にかとの疑問が湧く。

1時間後に、同長官は首相に対し辞表を叩き付けた。
そして首相に直接報告をする様な任務には就けぬとコメントもした。

またこの辞表を受理するか否か、関係者一同が右往左往する体たらくを
露呈したが、結局不受理となった。

醜態を晒してから、約1ヶ月間、今度は慎重に根回し等を行って来た首相で
あるが、結果的には、反対した1名が公的行事での海外出張が入った事を
理由に辞任、更にもう1名が決定会議の日に同じく海外出張が入った為と
して代理(賛成派)を任命した事により、反対派は3名となり、今回は首相が
執着したプラテープ氏が時期警察庁長官に決定するだろうと思ったら、
会議は20分で終了、決定は延期となった。

首相はマスコミが斯かる内容を報道している事を非難、こうまで紛糾すると、
全ての人々の理解を得る為に更なる時間が必要と、延長戦になった事の
理由を説明した。

ムードとして今月末までには決まらぬ雰囲気となって来た。
この場合は代行で時間を稼ぐとの事であるが、俎上に上がっている人々や
家族はたまったものでは無いと感じるし、首相の指導力、統率力が大きく
問われそうである。

プラテープ氏は黄色派ではあるが、管理部門の出身で現場を指揮した
経験が無い。対抗馬のチュンポーン氏は現場を多く経験して来た経歴で
申し分ないが、タクシン氏の学友で、結び付きが深い難点、この両者以外
から選任してはどうかかとの意見も出て来ている。

首相に残された時間は余り無い。
日本でもめでたく鳩山内閣が誕生したが、斯かる重要人事での迷走が
無い様に、慎重且つ明確なる対応を頂きたいものと念じている。

しかし古今東西マスコミとは、現政権を余り祝福するとの基調は少なく、
不安を煽る記事を書きたいものの様であると感じる。
国が団結し、苦境を克服して行く後押しに、もっと精力を傾けて欲しいものと
念じている。

ある日本の新聞の社説に

“政治家も官僚も企業人も変わらなければならない”

と論説が出た。
マスコミもと記されていない所に大いに落胆している。

アピシット首相のタクシン嫌いの一環か、以前より議論を呼んでいた、
アルパイン・ゴルフ場の土地疑惑問題を再度俎上に載せた。

これは土地を保有していた老婆が遺言で、この土地を地元寺院に寄贈した。

しかし寺院はその土地の取得税を支払うことが困難と躊躇した。
それを聞きつけた有力政治家とゴルフ場開発業者が自己の所有として登記し、
アルパイン・ゴルフ場を作ってしまった。

しかし1997年の為替暴落による大不況で、この開発業者は倒産に追い
込まれる苦境になった。
これに目を付け、弱者救済の美談で、5億バーツと言われる超安値で、
このゴルフ場を手中に収めたのがタクシン氏の女中であった。

タイガー・ウッズも数回プレーし、評価も上がり、タイ屈指のゴルフ場として
今日に至っている。

不明朗な土地の登記、首相の女中が取得との、誠に理解に苦しむ売買、
且つこの土地にはゴルフ場は建設できぬはずとの異議申し立てが出て
いるものである。

政治の道具として、また当分の間議論を呼びそうであるが、お陰で多数の
友人が気にしている、エリート・カード存続の議論が遠のきそうな気配を
喜んでいる。

久々にポチャマン元タクシン夫人が息子、娘を伴い姿を現した。
これは760億バーツの資産を不当にタクシン氏より譲渡されたとする
嫌疑に対して法廷に出頭した為である。

彼女はSHIN CORPは自分が始めた事業であり、その他諸々の嫌疑に
対しても全て自分は無罪であると主張した。
今後の公判の推移を見守りたい。

そのタクシン氏がクーデターで失脚してから丸3年を迎えた
19日、タクシン支持者達の赤組(反独裁民主同盟/UDD)が今年4月の
大規模騒乱以降、久しぶりに反政府集会を開いた。

政府は一足先に旧国会議事堂周辺の区域に治安維持法を発令、
厳戒態勢を敷いたが、大きな混乱等なく、集会は平和裏に散会との
結末であった。

当初赤組は、タクシン氏を追いやったクーデターの黒幕として非難する
プレム枢密院議長の自宅へのデモ行進や座り込みを予定していたが、
同氏不在と分かると否や拍子抜けしたように颯爽と取り止めた。

主役のタクシン氏は、お決まりの如く、もはや定番となった国際電話と
ビデオにて登場。

「私が自国を追いやられて3年も経つというのに未だに国民和解が
実現していないではないか。また、経済も国民生活も一向に良くならない。
現政権は一体何をしているのか?国情は悪化の一途を辿るばかりで、
タイ国民の幸せを奪っているではないか。幸いにして現政権の支持率は
低迷しているようだ。もし祖国と国民が自分を必要としているならば、
帰国して、国王陛下のために己の身を削り、公益に目を向け、
平和的解決に貢献したい」

と述べ、引き続き、復権をかけた目論見を持って、断固戦っていくことを
熱くアピールした。

赤組も“来月また抗議集会を開く。また戻ってくる”とタクシン包囲網
なんてどこ吹く風、継続的な反政府集会を開いていくことを公言している。

依然として、赤組(新興財閥・地方農民) VS 黄色組(旧財閥・都市部住民)
の対立構造がこの国に暗い影を落としており、明るい兆しは見えて来ない。

ある民主党員は、

「タクシンは自分の既得権益と復権のために赤組を巧みに操っては、
不確かで偽りの希望を抱かせるという誤った方向に導いている。
この御仁が国家を不安定にする行為を今すぐ止めれば、国家は必ず
すぐに良くなるのだ」

と述べた。

しかしながら、タクシン氏の支持は依然根強いことも事実で、先の世論調査では、
ついに、経済政策で成果を出せないでいるアピシット首相の支持率をタクシン氏が
上回るという結果も出ている。アピシット首相もいよいよ正念場を迎える。

ある有識者が、「赤組と黄色組の対立を緩和・鎮める妙案などない」と
述べていたが、確かにそうであろう。

従来のタイ流の急先鋒たる方式は、「腐敗・汚職政治にはクーデター、軍・警察の
突出には民主デモというバランス感覚と国王陛下裁定」というお話を聞いたことが
あるが、昨今、国王陛下は国が二分されていることに憂慮をお示しになられても、
直接的なご裁定をされることは無くなったと感じている。
前号でも述べたが、この国家の難局を国民が自力で乗り越えることができるか、
アピシット首相の手腕に期待したい。

そのような折、国王陛下が体調不良でご入院された。
ご入院された日より、国王陛下の健康回復を願い、多くのタイ国民が祈る姿が
タイ全土で見られた。

祈りが通じたのか、国王陛下の病状はすぐにご回復され、食欲もあり、
血液検査の結果は正常、十分な睡眠も取られているとのことである。
タイ国民は安堵の胸を撫で下ろした。

タイ王国及びタイ国民の精神的支柱であり続ける国王陛下の
ご長寿とご健康をお祈り申し上げたい。