M&A月報No.143 「騒乱再び」

 

また残念な事件が起こってしまった。
今度は、タクシン支持派の赤組(反独裁民主同盟/UDD)による東南アジア
諸国連合(ASEAN)とASEANプラス3首脳会議場への乱入と首都バンコクに
おける軍との衝突である。

昨年の10月の黄色組(民主主義市民連合/PAD)による市内騒乱及び
12月の空港閉鎖に続く大規模デモ行為であり、アピシット首相は直ちに
パタヤを含むチョンブリ県とバンコク及び周辺5県に非常事態宣言を発令した。

ASEAN会議場占拠では、各国首脳が屋上からヘリで脱出する
様子がTVで流れ、前代未聞の事態が露呈された。
異様な光景でもあり、ASEAN史上でも稀な異常事態と言えるであろう。

前兆は確かにあった。
赤組は4月末から首相府周辺で反政府集会を開いていたが、タクシン氏が
演説で、プミポン国王陛下の信頼が最も厚いプレム枢密院議長を2006年の
クーデターの黒幕であると名指しで批判すると共に、

「憲法を越えた御仁は軍服を着て私への攻撃を続けている」

と直接対決の姿勢を一段と強め、赤組全体の士気高揚とデモ行為を扇動する
挑発的な態度を取り続けた。
この段階において、現政権による彼等赤組を過小評価した対処は明らかに
危機管理能力を欠如していたことは否めない。

8日には5万人を超える大規模集会となり、そこでもタクシン氏は意気揚々と

「今こそ革命の時だ!真の民主主義を奪取する!」
「これは自分のための戦いではなく、国家や国民のためである。
自由と平等、友愛の精神を持つ国家を望む」

と主張。この勢いで赤組はASEAN会議場への突入へと突っ走り、
中止させたことによる余勢とパタヤデモを先導した幹部逮捕を受け、
バンコクでのデモ継続・騒乱へと至る。

強制排除はしないという姿勢の政府であったが、13日には、ついに道路封鎖を
しながらデモ活動をしていた一部の赤組に対して、軍をはじめとする治安部隊が
催涙ガス弾を発射、強制排除に乗り出した。
その際、70名以上が負傷。憲法裁判所にも爆弾が投げ込まれ、爆発により
兵士1名が負傷。

その後も赤組と軍との衝突は繰り返され、死亡者2名、負傷者が130名以上の
事態となる。死亡した2名は一般住民であり、道路占拠により商売が出来なく
なり抗議した住民に対し赤組が発砲したのである。
タクシン氏や赤組は、軍の強制排除による赤組の犠牲者と訴えていたが、
当は無実の一般住民であった。

赤組の暴挙は続き、バスに火をつけ爆発させたり、軍に向けてバスを
暴走させたりと、行為はエスカレートしていったが、軍による包囲網・
圧力によりデモ隊人数も徐々に減っていき、当初の大規模集会では
5万人強居たデモ隊が最終的には2,000人弱となり、14日、ついに赤組は
中止・撤収を宣言。
軍による強制排除前の判断により最悪の大規模衝突・流血事態は回避された。

「参加者の身を守るためだ」
「敗北ではない。また必ず立ち上げる」

と幹部達は声高々に述べたが、一方、デモ参加者達は

「本当は怖かった。早く帰りたかった」
「結局、何も変えられなかったじゃないか」
「敗北としか言いようがない」
「民主主義のある国にしたかった」

等々、徒労感漂うコメントが目立った。

強制排除の最後通告を突きつけられていたこともあるが、地元メディアの
批判も高まり、且つ市民から幅広い支持を得られなかったことも中止・撤退の
要因だろう。

今回の大規模デモの沈静化に対する軍の貢献は大きかったと言える。
先の黄色組による空港占拠では軍は動かず政権は崩壊したが、
今回は軍がいち早く動き、国内抗争を収拾させたことへの評価は大きい。

デモ中止の翌日の15日、政府は今回のデモを扇動したとしてタクシン氏の
パスポートを無効にし、且つインタポールを通じ国際指名手配をかけた。
また、赤組の指導者ら46人に逮捕状を出し、3人を逮捕した。

復権をかけた遠隔操作によるデモは失敗に終わり、国際指名手配もかけられ、
自らを窮地に追い込んでしまったタクシン氏はどうやらUAEもしくはアフリカの
某国に居るらしいが、タクシン包囲網が強まる中、最後の悪あがき的に、
プミポン国王陛下による裁定を願いでると共に、

「祖国と国民が自分を必要としているならば、平和的解決の一役を担いたい」

と語ったという。
全くもって、KY(空気が読めない)且つ自覚のない言葉である。
金銭的にも余裕がなくなってきている同氏であるが、心の余裕、
拠りどころも無くなりかけているのだろうか?

今回の騒乱に対する軍による事態の収拾・鎮圧に対する世論の評価は高い。
調査結果では75%が鎮圧を容認した。だが一方、65%の回答者が

「デモ隊はただ純粋に且つ愚直に民主主義を求めていた」

と回答すると共に、国内抗争の解決に全力で取り組んでいない政府を懸念した。

また、タイ政府は3度目の正直として、ASEANプラス3首脳会議を今年6月に
南部リゾート地のプーケットで開催する計画を発表したが、日中韓の3カ国が
タイでの開催への懸念を表明。
警備計画の詳細を聞き、不安が払拭されないようであれば、タイでの開催を
認めないとの考えだ。
今後のタイ政府の対応、外交交渉に注目したい。

アピシット首相は、24日、非常事態宣言を解除したが、翌日、早速赤組は、
今度は王宮広場にて1,500人規模の反政府集会を開いた。
衝突等はなかったようだが、依然として根強く、
赤組(新興財閥・地方農民) VS 黄色組(旧財閥・都市部住民)
の対立構造がこの国に暗い影を落としている。

昨今のタイの世相を反映してか、タイ教育省が全国の小中高生を対象に
実施した調査では、「タイ人であることを誇りに思う」との回答が38%と
意外に低い数字であったことに驚いている。
彼らがタイ人として確固たる自信・誇りを持ち続けられるような国作りをして
いくことが今、急務であることを大人達は忘れてはならない。

“鳥”かと思いきや、メキシコ発の“豚”インフルエンザの脅威が瞬く間に
世界を駆け巡った。
WHOは人から人への感染を認める判断で、警戒レベルをフェーズ5に
引き上げると共に、世界的大流行(パンデミック)の可能性を懸念した。

30日現在、タイ国内での感染は報告されていないが、タイ政府は、
メキシコ及びUSAよりの生きた豚の輸入を禁止すると共に、全ての検疫所や
主要空港における検査強化に乗り出した。
メキシコと接続している計8つのルート経由でのタイ入国者は1日平均約3,000人。
他国同様、水際対策のさらなる強化が求められる。

今年のタイ旧正月ソンクラン祭り、別名「1年で最も危険な1週間」中に発生した
交通事故は計3634件で、死傷者は3961人、その内死亡者は321人であった。
主な原因は、例年同様、飲酒運転とスピードの出し過ぎであった。
昨年と比べると、事故数及び死傷者数、共に減少したが、来年以降は
さらなる事故削減対策の強化が求められる。